甘味拾

□赤の戦士と青の人魚姫
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翌日

「ふじの、顔色が悪いわ。今日は学校お休みした方がいいんじゃない?」

ふじのが玄関で靴を履いていると、後ろから母親がそう言った。
寝不足の頭痛を顔に出さないように気をつけながら、ふじのは鞄を持ってドアを開けた。
外はとてもよく晴れている。

「大丈夫、行ってきます。」

ふじのがドアを完全に閉める。
前を向くと、そこには杏子がいた。
いつもみたいに何かを頬張りながら、杏子はふじのをじっと見つめる。

「アタシが何しに来たか、わかるよな?」

杏子の目を見れば、彼女が考えていることはすぐに分かった。
ふじのはただ頷く。

「あの子は?」

「多分、学校に向かっている途中だと思う。付いてきて。」



意識を集中出来ない。
いつもと変わらない学校までの道程が、知らないものみたいに感じる。
手に持っているはずの鞄の重みでさえ、まるでどこかにいってしまったみたいだ。

「まどかさん?具合が悪いのですか?」

まどかと一緒に通学しているのは、同級生の志築仁美。
本当はここにさやかもいたのだ。

「ちょっと寝不足で・・・」

「まぁ、それはいけませんわ。夜はしっかり眠らないと。」

仁美の心遣いにも、いつもなら笑顔で返せるのに今日は引きつってしまう。
うまく笑えているのだろうか。
まどかがそんなことを考えていると、仁美がポツリと言った。

「今日も、さやかさんはお休みなんですね・・・」

「・・・うん」

まどかは嘘をついた。
さやかは既に死んでいるなどと、まどかが仁美に言えるはずもない。
まどかはいたたまれない気持ちになった。

「お見舞いに行くべきでしょうか・・・でも、今は少しだけさやかさんとは顔を会わせづらいんです。」

仁美は苦笑した。
それは、まどかが仁美の気持ちを知らないと思っているからだった。
仁美がさやかに顔を会わせづらい理由。
それは、上条恭介に関わることだった。
仁美は、昨日の恭介への告白をさやかに見られたことに気がついていなかった。


[昨日の今日で、暢気に学校かよ?]


まどかはハッと息を飲む。
隣にいる仁美には聞こえない、魔法少女だけのテレパシーが届いたのだ。
まどかが辺りを見回すと、遠くにあるビルの屋上にテレパシーの送り主はいた。
赤い髪の毛が、強い風になびいている。

[ちょっと話があるんだ。顔かしてくれる?]

赤いソウルジェムを手に乗せている杏子の隣には、制服姿のふじのがいる。
まどかは覚悟を決めたように手をギュッと握りしめた。

「ごめん仁美ちゃん・・・今日は私も学校お休みするね!」

「え?あ、まどかさん!?」

まどかは仁美に「本当にごめん」と言い残すと、来た道を駆け足で帰っていく。
ボーッとしていた感覚は、まどかから消えていた。





先日の雨の水溜まりがまだ残っている。
まどかは水溜まりを避けるようにして歩いた。

「あの、話って・・・」

市内の賑やかな場所から少し離れた閑静な住宅街の裏。
ちなみに、学校からも少し遠い場所。
秘密の話をするのにはぴったりの場所だった。
まどかが杏子に指定されたここに来ると、既に杏子とふじのがいた。

「美樹さやか・・・助けたいと思わない?」

「っ、助けられるの!?」

「助けられなかったら何もしないのか?」

まどかは杏子に返すことが出来なかった。
杏子の横でそれを見ていたふじのは、杏子に言う。

「杏子、それ聞き方が変だよ。」

「馬鹿なこと言ったって思うかもしれないけど、アタシもここにいるふじのも・・・本気だよ」

「本当に助けられるのかどうか、それを確かめるまで諦めることなんか出来ない・・・」

ふじのと杏子は、初めから同じことを考えていた。
確かに、さやかのソウルジェムは濁りきってグリーフシードへと変貌し、魔女が生まれた。
しかし、その魔女が元々はさやかであった事実は変わらない。
希望があるとすればそこしかない。

「アタシじゃ駄目でも、友だちの声なら分かるかもしれない。
呼びかけたら、人間だった頃の記憶を取り戻すかもしれない・・・」

でも、それが出来る人間は限られている。
人間だった頃のさやかが一番に心を許していた、一番の親友。
その条件にあてはまるのは


「それが出来るとすれば、それはきっと・・・まどかしかいない」
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