甘味拾

□最後に残った希望を胸に
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「どうして来たの!?」

ほむらの目の前には、巨大な斧を携えたエメラルドグリーンの魔法少女がいる。
辛うじて残った使い魔も、全てふじのによって切り落とされた。
ほむらは現れた魔法少女、ふじのに対して怒鳴り声をあげる。
しかし、ふじのはほむらの方を向いて微笑むだけだ。
全てを悟ったような目は儚さを帯びているが、強さを秘めていた。

「私には、自分が願いから生まれてきた存在だなんてさ」

また次の使い魔たちがやって来る。
重い雲が立ち込める空の中で、ワルプルギスの夜は甲高い声で笑い続ける。
ふじのは新たにやって来た使い魔に手を突き出した。
瞬間、何もない場所から大小形も様々な斧が出現する。
斧はふじのの合図を待っている。
ふじのが合図となるように腕を捻ると、全ての斧が一斉に使い魔に放たれて使い魔たちを一刀両断する。

「実感はないよ・・・けどね!」

上空から、ふじのに向かって使い魔が飛んでくる。
ふじのは斧の刃の部分を特に巨大化させて、使い魔に向かって振り回す。
大きな音と一緒に、使い魔はバラバラになって消滅した。

「“ふじや”に望まれて生まれてきた私が、戦わないわけにはいかない。それにね・・・」


暁美さんを一人にはしないよ


ふっと見せた笑顔が、廻ってきた世界に生きていたふじやと重なる。
エメラルドグリーンが美しい魔法少女は、地を強く蹴って飛び上がる。
ワルプルギスの夜は、見滝原市民が避難している場所へ進んでいる。
ここで何とかして止めなくてはならない。

「ふじの!!」

ほむらが初めて、ふじのを名前で呼んだ。
ふじのは魔力を込める。
高くそびえ立つビルの屋上から、鎖の束が飛び出した。
ふじのの主な武器は斧。
しかし、どういうわけかふじのは特別な環境だと別の武器が使える。
マミを喰い荒らした魔女を倒した処刑道具、ギロチンだ。
キュゥべえでさえも、何故彼女が二種類の武器を扱えるかはわからなかった。
でも、今なら何となく理解できる。
ふじやであった名残が、ギロチンを扱える能力なのだ。
大量の鎖がワルプルギスの夜の夜をぐるぐると囲っていく。
ギロチンを扱う特別な条件、それは処刑対象を鎖で固定すること。
簡単なのだが、相手は巨大なワルプルギスの夜だ。
一筋縄にいかない。

「だからって、諦められるか!」

ふじのは更に鎖を生み出した。
ワルプルギスの夜を囲う鎖が、徐々に本体に絡み付いてくる。
このままいけば、地面に引き落とすことが出来る。
ふじのは拳を握った。



『          』



鼓膜が破けそうになる絶叫。
ふじのとほむらは咄嗟に両手で耳を塞いだ。
二人の邪魔をしていた使い魔が、ワルプルギスの夜の絶叫に当てられて破裂した。
脳が揺らされ、平衡感覚が奪われる。
ワルプルギスの夜は自由にくるくると回る。
彼女の絶叫に当てられたのは使い魔だけではない。
凄まじい衝撃波となった絶叫によって、ワルプルギスの夜を拘束しかけていた鎖が弾けていた。
ワルプルギスの夜を止めるものは何もない。
超弩級の念力によって、しっかりとした土台の上に建っていた高層ビルが宙に浮く。
建設現場よりも凄い轟音を立て、ガラガラとビルの土台が瓦礫と化した。
最早、人間の力が及ぶものではない。
見滝原市の破壊が進む。
ワルプルギスの夜は、このビルをどう使うのか決めてあった。
自分の邪魔をした報復だ、とでも言いたかったのだろうか。
屋上を下にして、ビルがふじのとほむらの頭上に降ってきた。
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