移行済・甘味拾

□最後に残った希望を胸に
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考えられることは一つだけ。
魔力を使い果たして、ソウルジェムが濁りきってしまったのだ。
絶対に魔女になりたくないふじのは、濁ったソウルジェムがグリーフシードに変わる前に握り潰したのだ。
また勝てない。
この世界でも、ほむらはワルプルギスの夜に勝てない。
救いたい者を救えない。
ほむらは時間を巻き戻そうと思ったところで、それを躊躇った。

【君の時間干渉能力によって、鹿目まどかと飛鳥井ふじのは運命の中心になってしまった】

ほむらが時間を戻せば、世界をやり直せばその分だけ二人の魔力が大きくなる。
まどかとふじのを救うことは無理なのか。
最初から希望がない願いだったのか。
ほむらは空を見つめる。
ワルプルギスの夜は、彼女の気も知らないで踊る。
ほむらのソウルジェムは、じわじわと黒さを増していく。

「どうして!?」

止まれ、止まってよ!
どうして倒せないの。
私じゃ駄目なの?
どうして邪魔をするの。
私の願いは、許されないの?

ほむらは顔を歪ませて涙を流す。
絶望がほむらの心の中を侵食していった。
抵抗しようとすればするほど辛くなって、その心が絶望を増幅させていく。
このまま魔女になって、世界を壊してしまおうか。
そしたら何もかも忘れて、こんな思いもしなくて済む。
ほむらは身を委ねようとした。


「ほむらちゃん」


避難しているはずの人物がほむらを呼んだ。
ほむらは彼女のために戦っている。
ほむらのソウルジェムの侵食が、ゆっくりと止まった。

「もういい、もういいんだよ。ほむらちゃん・・・」

「まどか?」

まどかは頷くと、宙に浮かぶワルプルギスの夜に向き直る。
彼女の足元には、インキュベーターがいた。
まどかはソウルジェムが砕けて死んだふじのの横にしゃがみこむ。
膝を地につけて、放り出されている腕を丁寧に組ませた。

「ほむらちゃん、ごめんね」

まどかはほむらに言う。


私、魔法少女になる


それは、ほむらが一番望んでいないことだった。
痛む身体を動かして、まどかを止めようとする。

「私、やっと分かったの。叶えたい願い事を見つけたの。
だからそのために、この命を使うね。」

「止めて!
それじゃぁ、私は・・・何のために!」

ほむらの目に涙が溢れた。
まどかはほむらに歩み寄ると、彼女を両腕で優しく包み込んだ。

「ごめん、本当にごめん。
これまでずっと、ほむらちゃんに守られて望まれてきたから、今の私があるんだと思う。」

小さな子供に言い聞かせるように、まどかは「ごめん」と繰り返した。

「そんな私が、やっと見つけ出した答えなの・・・信じて」

ほむらはまどかの手に自分の手を重ねた。
まどかはほむらの瞳を見て、ほむらの額にコツンと自分の額を当てた。

「絶対に、今日までのほむらちゃんを無駄にしたりしないから!」

「まどか・・・!」

まどかは静かに立ち上がり、瓦礫の上に座しているキュゥべえを見つめた。
キュゥべえもまた、表情こそ変化しないが、緊張した空気を感じ取っていた。
まどかが願えば世界は変わる。
否、宇宙の理が全て変わる可能性だってあるのだ。

「数多の運命の世界を束ね、因果の特異点となった君なら、どんな途方もない望みも叶えられるだろう」

「本当だね?」

「さぁ、鹿目まどか!
その魂を代価として、君は何を願う!?」

まどかは大きく息を吸い、そして吐く。
心が落ち着いた。
まどかは、誰も願ったことのない願いを叶えるのだ。



「全ての魔女を、生まれる前に消し去りたい!
全ての宇宙、過去と未来の魔女を・・・この手で!!」



パアッとまどかの心臓に当たる部分がピンク色の光を放つ。
キュゥべえは、まどかの願いに意表を突かれた。
何故なら、彼女の願いが叶うとすれば、それは時間干渉すら凌駕したものとなる。
世界を繋げている因果律そのものを壊すものだ。
キュゥべえは、まどかに尋ねた。

「君は本当に神になるつもりかい・・・!?」

「神様でも何でもいい。
今日まで戦ってきたみんなを、
希望を信じた魔法少女を、
私は泣かせたくない・・・最後まで笑顔でいてほしい」

みんな同じだったのだ。
たった一つの希望を胸にして戦ってきた。
今のまどかには、その思いが痛いほど分かっていた。

「それを邪魔するルールなんて壊してみせる、変えてせる!
これが私の祈り・・・私の願い!」

まどかは閉じていた目を見開いた。
まどかから溢れていたピンク色の光は、更に量を増して光の洪水を生み出す。
その光の量は、まどかの持つ力と願いの大きさを物語っていた。




「さぁ叶えてよ、インキュベーター!!」











つづく
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