移行済・甘味拾

□最後に残った希望を胸に
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ガラッ

瓦礫の下から一人の魔法少女が出てきた。
服は所々破れてしまっていて、出血したために血が滲んでいる。
ふじのはよろける身体に鞭を打って、見当たらないほむらを探した。
辺りは酷い有り様になっている。
降ってきたビルは、二人の近くにあったビルも巻き添えにしていた。
雨が降っているせいで、水溜まりが所々に出来上がっている。
パシャパシャと音を立てながら、ふじのは倒れているほむらに駆け寄った。
頭上では、ワルプルギスの夜が楽しそうに回っている。
笑い声からは、彼女が満足しているような印象も受けた。

「暁美さん!」

膝をつき、目を閉じているほむらに声をかける。
彼女は瓦礫に頭を打ち付けて出血していた。
幸いにも、ほむらのソウルジェムは砕けていなかった。
肩を揺するが、彼女が目覚める気配はない。
ここは危険と判断してほむらを抱き抱えようとした時、ふじのはほむらの片足が瓦礫に埋もれているのを見つけた。
引っ張ってみるが、うまく抜くことが出来ない。
魔法を使おうとしたが、その前に嫌な予感を肌で感じた。
ふじのはほむらを寝かせて空を見上げる。
ワルプルギスの夜はふじのを見つめていた。
ふじのは、未だ気を失っているほむらに声をかける。


「今度は私が、あなたを守る」


エメラルドグリーンの光が辺りに満ちる。
ふじのはこめられるだけの魔力をありったけにこめた斧を出した。
それは、彼女のソウルジェムと同じ光を放っている。
空に浮かぶワルプルギスの夜は、尚も立ち向かってくるふじのに絶望を与えるために笑う。
笑い声に合わせて、また見滝原市が破壊されていく。
雨が、ふじのの頬を伝った。















「ん・・・」

ほむらは手を動かした。
瓦礫の感触が伝わってきて、その後に全身に痛みが走った。
ビルが目の前に落ちてきて、時間を止めようとしたがソウルジェムが限界であることが分かってしまった。
だから止めることが出来なかった。
ほむらは身体を起こして、ふじのが無事かどうかを確認する。
右でもない、左でもない、ほむらの正面にふじのは立っていた。
まるで、何かからほむらを守るように。

「ふじの・・・?」

片腕が無くなっていた。
足はガクガクと震えていて、片足は靴が脱げている。
服のほとんどが、赤黒く染まっている。
ふじのはほむらの呼びかけに返事をすることはなかった。
ただ後ろを振り向き、ほむらの無事を確認すると口元に悲しそうな笑みを浮かべて崩れ落ちた。

「ふじの!」

ほむらは身を前にやる。
しかし、足が瓦礫に挟まれているせいでそれ以上前に行けない。
手をめいいっぱい伸ばすと、倒れたふじのの頬に指先が触れた。
ふじのは魔法少女の変身が解けて、中学校の制服姿に戻っていた。
ふじのの瞳はほむらを映していない。

「嘘よ、嫌・・・!」

何度も繰り返した世界の中で、同じようになった魔法少女を何回も見てきた。
ふじのの残っている手には、何かが握られていたようで。
力なく放り出されている手の上には、粉々になったソウルジェムがあった。
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