移行済・甘味拾

□哀れな人魚姫は、泡となって消えることも叶いませんでした。
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ほむらが静かに口を開いた。

「嘘、でしょ?」

「事実よ。
それがソウルジェムの最後の秘密・・・」

ほむらはまどかとふじのに示すように、自身のソウルジェムを取り出した。


「この宝石が濁りきって黒く染まるとき・・・私たちはグリーフシードとなり、魔女として生まれ変わる」


ふじのの手の中で、ソウルジェムが小さく光っている。


「それが、魔法少女となった者の逃れられない運命・・・」


ふじのは、何故ほむらがふじのにグリーフシードを渡したのか理解した。

「嘘よ、嘘よ・・・ねぇ!」

ふじのたちのすぐ隣を、電車が通りすぎていった。
まどかの震える声は、語尾が電車の音に掻き消されてしまっていた。
まどかはほむらを見つめるが、ほむらは何も返さない。
無言の返答が、全て事実であることを物語っていた。

「嘘よ・・・ねぇ、どうしてさやかちゃんが?」

魔女から人を守りたいと、正義の味方になりたいと魔法少女になったさやか。
その彼女の最期が魔女となることなんて、あんまりではないか。

「その願いに見合うだけの呪いを、彼女が生み出してしまっただけのこと。
あの子は誰かを救った分だけ、これからは誰かを祟りながら生きていく・・・」

杏子はさやかを下に下ろした。
まどかは膝をついてさやかに抱きつくと、そのまま嗚咽をあげ始める。
ふじのは、さやかの頬に手を当てた。
冷たく、もう生きていないことを思い知らされるだけとなる。
目から涙がポロポロと溢れ落ちた。

「てめぇは、何様のつもりだ・・・!」

杏子はまどかとふじのを見た後、ほむらの首もとを掴んだ。
ギリギリと、沸き上がる感情を押さえきれずに強い力で掴む。

「事情通です、って自慢でもしたいのか!」

ほむらは何も言わず、目線を杏子から外す。
だが、それを許さない杏子はほむらの肩にしがみついて揺すった。

「何でそんなに得意げに喋ってられるんだ・・・コイツらはさやかの、」

杏子は一息置いて、泣いている二人に目を向けた。

「親友なんだぞ・・・!」

さやかは帰ってこない。
意地っ張りで喧嘩早いけど、誰よりも優しくて一途なさやか。
もう二度と、彼女がまどかとふじのに笑いかけることはないのだ。
大きな喪失感が、まどかとふじのを容赦なく襲う。

「今度こそ理解できたわね?あなたが憧れていたものの正体が、どういうものか・・・」

ほむらは至極冷静にまどかに言う。
まどかはただ泣き続けるだけだった。
ほむらは杏子の手を簡単に払い、風に髪をなびかせる。

「わざわざ死体を持ってきた以上、扱いには気をつけて。
迂闊な場所に置き去りにすると、後々厄介なことになるわよ・・・」

「てめえ、それでも人間か!?」

「もちろん、違うわ」

ほむらはきっぱりと言い返した。
杏子はほむらに圧され、次の言葉が紡げなくなる。

「あなたも・・・彼女もね・・・」

ほむらはふじのを一瞬だけ見る。
そして長い黒髪を揺らして静かに去っていった。
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