甘味拾

□まるでゾンビだ
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さやかは、少しだけ恭介に対して負の感情を抱いた。
退院したなら教えてくれたっていいのに。
さやかがいつも通り市立病院に行くと、恭介が入院していた病室は空だった。
一瞬、言葉が出せなかった。
毎日お見舞いに行ってたのだから、幼なじみなのだから、教えてくれたっていいじゃないかと。
それでも、恭介の家から聞こえたバイオリンの音色でさやかは全てを許した。
治ったんだもん。
すぐに練習したかったんだよね。
そう自分に言い聞かせて、さやかは恭介宅を後にしようとした。


【だからぁ、惚れた男をモノにするなら冴えた手があるじゃん?
今すぐ坊やの家に乗り込んで、坊やの手足を潰してやるんだ。
もう一度、アンタ無しでは何も出来ない身体にしてやるんだよ。】


許せなかった。
笑いながらそう言う杏子に、さやかは殺意を覚えた。
簡単に人を傷つけるような杏子の考え方は、元から気に食わなかった。
そして、まるで自分が
“恭介に好かれるために腕を治した”
と言われているみたいで不愉快になった。





「ここなら遠慮はいらない・・・」

国道の上の大きな歩道橋にさやかと杏子はいた。
大きな音を出しても、車がいっぱい通るここなら気にならない。
杏子はソウルジェムを取り出して魔法少女に変身した。

「いっちょ派手にやろうじゃん!」

杏子は槍の切っ先をさやかに向けた。
さやかも同じようにソウルジェムを取り出して、手のひらに乗せる。
さやかの魔力が増幅して水色の光が強くなる。

「さやかちゃん!」

「まどか!?ふじのちゃん!?」

さやかが魔法少女に変身する寸前で、キュゥべえがふじのとまどかを引き連れてきた。

「駄目だよこんなの、絶対おかしいよ!」

「邪魔しないで、二人には関係ないでしょ!?」

「さやか・・・!」

端から見ている杏子は興が削がれたように、持っていたチュロスをかじり始める。
サクサクと音を立てて、杏子はため息をついた。

「ウザい奴にはウザい仲間もいるもんだねぇ」

「じゃぁ、あなたの仲間はどうなるのかしら?」

杏子は後ろを向いた。
そこには、艶やかな髪の毛を揺らしてやって来る紫色の魔法少女がいた。
杏子は嫌そうな顔を見せる。
紫色の魔法少女、ほむらは杏子に言った。

「話が違うわ。
私は、美樹さやかには手を出すなと言ったはずよ。」

「あっちからふっかけてきたんだぜー?」

「同じよ、私が相手をする。」

ほむらは戦えるように構えた。
杏子はつまらなそうに返事をして、食べかけのチュロスをほむらに見せた。
もうほとんど食べきっていて、あとは一口でいける大きさだ。

「これ食い終わるまで待ってやるよ!」

「十分だわ。」

「マジかよ!?」

「・・・な、なめんじゃないわよ!」

端から見ればコミカルな場面でも、さやかの神経を逆撫でしただけだった。
さやかはソウルジェムを高くあげ、魔法少女に変身しようとする。
まどかは唇を固く結んで、誰も予測しなかった行動に出た。

「さやかちゃん、ごめん!」

まどかはさやかの手からソウルジェムを奪うと、下の国道に投げ捨てた。
水色に光るソウルジェムはトラックの荷台に乗り、そのまま遠ざかっていく。

「まずい・・・!」

「まどか!あんた何てことを!」

「だってこうしないと・・・!」

「だからって」

「っ、さやか?」

ふじのはフラッとしたさやかの肩を支える。
後から腕にきたのは、さやかの全体重分の重み。
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