甘味拾

□Walpurgisnacht
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『現在、見滝原市周辺に緊急避難命令が出ています。
住民の皆様は、各地区で指定された避難場所へ避難してください。
繰り返します―――』












空が重く、沈んでいる。
大雨が降る予兆なのか、生温い風がほむらの頬を撫でた。
気象庁が出した避難命令を伝えるパトカーの音が聞こえてくる。
観測史上最大の嵐が、ここ見滝原市を襲おうとしているのだ。
ほむらは自身の手の中にあるソウルジェムを握りしめ、灰色の空を鋭く睨み付けた。
ほむらの周りには誰もいない。
ほむらを除いた見滝原市民の全てが避難しているからである。
それは、ほむらにとって好都合であった。
一般人が居なければ、心置きなくほむらは戦える。

「・・・」

ほむらは、魔力を感じる方へ歩き始めた。
頭上では、真っ黒な雲がうねり、渦を描いている。
ザァッとほむらの視界が真っ白になる。
冷たい湿った風を感じ、それが霧だとすぐにわかった。
霧の中から、魔女の使い魔であるサーカスの動物たちがやって来る。
ほむらは別段驚くこともせず、ただ前に進んでいく。
雲のうねりが大きくなり、ほむらは立ち止まった。
使い魔たちはほむらに関心を示すことなく、ただ魔女のための行進を続ける。
象、ライオン、醜いマリオネット、曲がりくねったピエロ。
魔女のための舞台が、着々と用意されていく。







































































カウントが0を刻む。
華やかな幕が、この時を待ちわびたように切って落とされた。
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