移行済・甘味拾

□Walpurgisnacht
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「どこに行こうってんだ、おい」

避難所に指定されている市民ホール。
そのロビーで、まどかの母、詢子は外に出ようとした娘の手を掴んだ。

「私、友だちを助けにいかないと・・・」

腕を掴まれたまま、まどかは詢子の目を見て話す。
優しくていい子で、でも自分に自信を持つことが出来ない娘の目ではなかった。
詢子は初めて見た娘の表情に一瞬圧されるも、いつものように返す。

「消防に任せろ。素人が動くんじゃない。」

「私じゃなきゃ出来ないの!」

乾いた音がした。
まどかはじんじんと熱を持つ頬を手で触れる。
詢子は、まどかに手をあげたことに動揺しながらも、強く娘に言った。

「てめぇ一人の命じゃねぇんだよ!
お前が危険な目にあったら「わかるよ」

詢子はまどかの目を見た。

「わかるよ、ママやパパが私やタツヤのことをどれくらい大切にしてくれているか。
命を粗末にしちゃいけないことも知っている・・・だから!」

警察や消防では無理なのだ。
まどかが行かなくてはいけない。
まどかが大切なものを全部守りとおすために。
たった一人で戦い続けた友だちを救うために。

「理由は説明出来ないってか?」

「・・・」

「なら、私も連れていけ」

詢子の言葉に、まどかは首を横に振った。

「ママはパパやタツヤを安心させてあげて、だからここにいて。」

詢子は眉をひそめた。
娘が危険な場所へ赴こうとしているのに、親が何もしないなんて出来ない。
まどかは詢子に言う。

「ママはさ、私がいい子に育ったって言ってくれたよね。
嘘もつかない、悪いこともしないって。
今でもそう信じてくれる?私を正しいと思ってくれる?」

真っ直ぐな目が、絢子を射抜く。
勝負を目の前にした女の目だ。
まるで、鏡写しの自分を見ているような錯覚になる。

「絶対にヘタうったりしないな?
誰かの嘘に踊らされていたりしねぇな?」

まどかは頷く。
詢子はまどかの肩を掴むと、そのまま背中を向けさせる。
「行ってらっしゃい」の代わりに、娘の背中を強く叩いて前に押し出した。

「ありがとう、ママ」

まどかは運命の一歩を踏み出した。





一方、ほむらはワルプルギスの夜相手に苦戦を強いられていた。
協力な熱戦を浴びせたり、爆撃を見舞ったりした。
しかし、その中からワルプルギスの夜は涼しい顔をして現れる。
終わりは見えない。
決定打を打っても、決定打にならないのだ。

「これ以上先には行かせない!」

ワルプルギスの夜は、舞台の滑車をくるくる回して進む。
彼女が進めば進んだ分だけ絶望が振り撒かれ、被害が拡大する。
しかも、現在ワルプルギスの夜は最悪の進路を取っている。
ワルプルギスの夜の進行方向には、見滝原市民の避難所となっている市民ホールがある。

(止まれ!)

ほむらは建物の屋根から屋根へ飛び移り、ワルプルギスの夜の進路を妨げる。
ポンッとマリオネットを模した使い魔が大量に現れた。

「っ!」

反応に遅れる。
防御体勢になろうとする前に、使い魔がほむらの目の前に迫った。
ニィッと口が裂けて赤い牙が露になる。
ほむらは目を瞑った。


何もない。
銀色に光る刃がいくつも飛んできて、使い魔に命中した。
高い声をあげて使い魔は消滅する。
ほむらは地面に着地し、間一髪で自分を救った人物を見た。

肩に斧を担いでワルプルギスの夜を睨み付ける、エメラルドグリーンの魔法少女だった。











つづく
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