移行済・甘味拾

□Walpurgisnacht
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彼女は魔女
“舞台装置”の魔女

彼女のために用意された舞台で、彼女は破壊を尽くす。
その魔女は、全ての魔法少女から畏怖の念を込めてこう呼ばれている。


Walpurgisnacht


通称、“ワルプルギスの夜”
彼女は彼女自体が舞台であり、体は舞台と一体化している。
お伽噺に出てきそうな青いドレスを翻し、真っ赤な唇が鋭い歯を剥き出しにして気味悪く開かれる。






「今度こそ、決着をつけてやる!」


ほむらの紫色のソウルジェムが光り、魔法少女に変身する。
ワルプルギスの夜は、彼女の頭上で甲高い笑い声をあげた。
直後、ワルプルギスの夜が動かなくなる。
ほむらの左手のブレスレットは変形して盾となり、その内側では歯車が回っていた。
時間を巻き戻すことを望んだほむらの魔法は“時間魔法”。
魔力が続く限り、ほむらが触れている以外のものは全てその時を止める。
無論、人間も。
次いでほむらが腕を大きく広げると、彼女の周りにいくつものバズーカが現れた。
全て、ほむらが対ワルプルギスの夜用に準備していたものである。
ほむらはバズーカを肩に担ぎ、ワルプルギスの夜に狙いを定めて撃つ。
撃たれた弾は、ほむらの魔法によって一定の距離を飛んだ後に停止する。
ほむらは撃ち終わったバズーカを放り投げ、別のバズーカを担ぎ直して撃っていく。
全部のバズーカが撃ち終わり、ほむらの盾の歯車がくるりと回転する。
全弾がワルプルギスの夜に命中した。
激しい光と共に、爆発の衝撃波がやって来る。

「・・・」

しかし、黒い煙が風に流れた後には傷一つないワルプルギスの夜が現れた。
これはまだほむらも想定していたことだ。
ワルプルギスの夜はくるくると回りながら悲鳴をあげる。
魔女の意図を知ったほむらは地面を強く蹴って、迷うことなく近くの大きな河川へと飛んだ。
水面に足が着くとすぐに、水の中からは巨大な大砲が数台現れる。
ほむらはそれに乗り、空中に浮かぶワルプルギスの夜を狙う。
見滝原市は、近年急速に発展した市である。
市内には数多くの重化学工場があり、特に今ほむらがいるような河川の近くには工場が立ち並んでいる。
撃たれた大砲はワルプルギスの夜に直撃、それと同時に工場にも命中して爆発炎上した。
太陽の光が遮られて薄暗いところに炎があがる。
黒煙をあげて燃え上がる炎の中で、ワルプルギスの夜は楽しそうに笑っていた。





「ハァ、ハァ、」

ふじのはがらんとした市内を走っていた。
腕を大きく振って、全速力で車道を走っている。
走りながら、ふじのは目的地の空を見上げる。
そこには煙がモクモクと上がっており、その中心には巨大な魔女が君臨していた。
“ワルプルギスの夜”が、まさかあんなに大きいとはふじのも思っていなかった。
ワルプルギスの夜はスーパーセル(竜巻の原因となる巨大な積乱雲)を引き起こせる魔女である。
妥当と言えば、妥当なのだろうか。

(暁美さんを一人には出来ない、私が、行かなきゃ!)

ほむらの話で全ての真実、今までのループしていた世界を知ったふじのは思う。
自分が無力であった世界で“ふじや”はどれほどもどかしい思いをしたのだろう。
素質はあるのに、男であるが故に魔女と戦うことが出来なかった彼の心を思う。
今のふじのには、彼が喉から手が出るほど望んだ力がある。
彼がその命を犠牲にしても望んだ力は、この手の中に。

戦わなくて、どうするのだ。

ふじのは強く地面を蹴った。
ワルプルギスの夜は回る、絶望に絶望しながら。
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