甘味拾

□新しい魔法少女
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目の前に迫る槍に邪魔されたさやかは動けない。
それを察知した使い魔は、これは好機とばかりにエンジンをふかして去っていった。
使い魔がいなくなったことにより、ゆらゆら揺れていた結界は消えていった。

「何すんの!?使い魔を野放しにしていたら誰かが殺され「当たり前だろ?」

杏子はさやかに冷たく言い放つ。
口にたい焼きを入れて、杏子は続けた。

「四、五人喰わせて魔女にすりゃぁ、グリーフシードも孕むのにさぁ。
卵産む前のニワトリ締めてどーすんの?」

呆れたため息を漏らす杏子。
ふじのは聞いておられず、杏子に向かって言った。

「魔女に襲われる人を、見殺しにしろって言うの?」

「マミの後ろに隠れていた臆病者ってのは・・・アンタのことかい?」

“臆病者”。
その一言によって、ふじのは何も言い返せない。
杏子は、そんなふじのの様子を見て口角を上げた。


「弱い人間を魔女が喰う。
その魔女をアタシ達魔法少女が喰う。
それが当たり前のルールでしょ?学校で習ったよねぇ、食物連鎖ってやつ?」


杏子は器用に片手で槍を振り回して肩に担いだ。

「まさかとは思うけど・・・
人助けだとか正義だとか、そんなくだらない理由で契約したわけじゃないよねぇ?」

「っ!」

さやかの脳裏に、恭介の笑顔が浮かぶ。
心から嬉しそうに、戻った手の感覚を話してくれた恭介。
恭介が幸せになるなら、命を懸けてもいいと思って契約を交わした。
それを「くだらない」の一言で一蹴されるのは、さやかには耐えられなかった。

「黙れ!」

「ちょっとぉ、なにすんのさ!!」

さやかは剣を強く握り、杏子に斬りかかった。
不意打ちではあったが、杏子の魔法少女歴は長い。
即座に反応し、槍の先端で彼女の攻撃を受け止めた。
さやかは全力を込めているが、杏子は涼しい顔をしている。
腕を大きく動かして、杏子はさやかの脇腹に槍を突き立てた。
赤い鮮血が飛び散り、さやかはその場に呻き声を出して倒れる。

「さやか!」

ふじのはソウルジェムを握りしめる。
エメラルドグリーンの光が辺りに満ちたとき、さやかは立ち上がった。

「手を出さないで、私の戦いなんだから!」

「・・・おっかしーなぁ。全治三ヶ月ってくらいにはかました筈なのに。」

さやかはよろよろと起き上がると、もう一度杏子に剣を向ける。
さやかの姿を見て、ふじのは変身するのを止めた。
さやかの契約は癒しの祈りによるもの故、回復力は人一倍である。
傷口から流れる血は止まり、傷もきれいに塞がった。

「私は、負けない!」

「アンタ、超うぜぇ。
言って聞かせて分からねー、殴っても分からねーバカとなりゃ・・・殺しちゃうしかないよねぇ!!」

ジャラララと、勢いよく地面から鎖が飛び出してきた。
それはさやかの頬を擦り、さやかを翻弄していく。
しかし、傷を負った端から回復していくさやかには致命傷とはならない。
それを察した杏子は、槍で大きな一撃を与えることに決めた。
刃と刃がぶつかり合い、高い金属音が木霊する。


「どうして・・・魔女じゃないのに、味方同士で戦わなきゃならないの?」

「魔法少女だって、人間だから利害の対立だってあるんだよ。」

ふじのは半ば諦めたように呟き、ソウルジェムを握りしめた。
もう一度光が溢れて、次の瞬間には魔法少女に変身する。

「私に二人を止められるか、わかんないけど・・・」

斧を手にし、ふじのは言う。
ふじのが止めに入るのはいいが、それはさやかを傷つけてしまう可能性が高い。
それでもふじのは戦闘に飛び込もうとした。

「ふじのちゃん・・・!」

「まどか、僕は戦闘には介入できない。
でも君にはその資格がある。君が本当にそれを望むならね。」

どうする?
と、キュゥべえはまどかに尋ねる。
赤い双眼がまどかを見つめた。

「私は・・・!」



「それには及ばないわ」



ふじのが斧を振りかざした瞬間。
さやかが胸元を斬られて転んだ瞬間。
杏子がさやかにトドメを刺そうとした瞬間。

静かな声と一緒に、もう一人の魔法少女が現れた。



「ほむらちゃん・・・」










つづく
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