甘味拾

□奇跡も、魔法もあるんだよ
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「はぁ・・・」

あの後、公園の出口辺りからふじのは走った。
暁美ほむらと対峙していると、彼女のもつ雰囲気に圧されてしまう。
彼女よりもふじのは年上なのだが、どうにも克服することは出来なさそうだ。
深い色の瞳は、まっすぐにふじのを射抜く。
否、ほむらはまるでふじのに誰かを投影しているかのようだ。
ふじのだけどふじのじゃない誰かを見つめている。
話してみてふじのは理解した。
暁美ほむらは、ふじのと話していてもふじのと話していない。
そんな風に言うのが一番しっくりした。
息が苦しくなったから、走っていた足を止めて歩き始める。
ゆっくりと息を吐いて、一歩一歩しっかり地面を踏みしめたとき、胸元の指輪が光った。
急いで取り出すと、ポワポワと淡い光を放つソウルジェムになる。
ソウルジェムの光の様子を見て、ふじのは理解した。

「魔女がいる・・・!」

ソウルジェムを握りしめ、魔女の反応がする方向へふじのは進路を変えた。






最近、と言うよりも暁美ほむらの転校以来、まどかの周りは非日常で溢れている。
キュゥべえと出会ったこともそう、魔法少女として戦うマミを知り、ふじのが魔法少女であることを知った。
そして、身近な人の死を間近で見た。

(私が、悪い子だから・・・)

まどかは心の中で呟いた。
まどかが居るのは物置の中、もとい魔女の結界の中。
まどかは結界に迷い込んでいた。

数十分ほど前のことだ。
魔女の獲物である証の“魔女の口づけ”を付けられていた友人、志築仁美を見つけたまどかは、半ば強制的に巻き込まれた。
寂れた工場に向かって、何人もの虚ろな目をした者が進んでいく。
その全員の首筋に“魔女の口づけ”が付けられていた。

【鹿目さん、これは神聖な儀式ですのよ!
邪魔をすることは許されませんわ、これから私たちは素晴らしい世界へ旅立つのです!】

まさに狂気。
一人の女性がバケツの中に塩素系洗剤をぶちまけたところで、まどかは彼らの目的に気がついた。
有毒ガスを用いた集団自殺である。
止める友人を押し退けて、まどかは窓からバケツを放り投げた。
しかし、まどかの危機は去ってはおらず、なんとか集団の手から逃げ切ったと思ったら魔女の結界に迷い込んでいた。

(私が弱虫で、嘘つきだから)

悲しい感情がまどかの中に渦巻いていく。
空中に浮かぶ使い魔たちは、そんなまどかの心に入り込もうとしてきた。
「そうだ」「その通りだよ」と、無邪気で残酷な答えをまどかに浴びせる。

(きっと、バチがあたったんだ)

どこからか操り糸で繋がれている使い魔たちは、カタカタと動く。
愉快に関節を軋ませて、人形型の使い魔はまどかに手を伸ばしてきた。

「まどか!」

使い魔の腕は、その操り糸と共に切り裂かれた。
まどかと使い魔の間に、鋭利な刃物が飛んできたのである。
壁に突き刺さる刃物を見て、まどかは名前を呼んだ人物がわかった。

「ふじのちゃん、まどかはよろしくね」

「了ー解、あんまり無茶しないで」

エメラルドグリーンをイメージカラーに持つ魔法少女、ふじのだった。
そしてもう一人。
彼女の隣を、素早く水色の魔法少女が通り抜ける。
片手に剣を構えた水色の魔法少女は、マントを翻して飛び上がる。
水色の魔法少女は、ズルリと這い出てきた魔女を捉えた。


「これで・・・トドメだ!!」


力強い声と共に、彼女の剣は魔女を二つに切り裂いた。
主が消えたことで結界は壊れ、一緒に使い魔たちも消えていく。
結界のあった空間は、元の殺風景な倉庫に戻っていた。

「やーごめんごめん、間一髪だったね」

水色の魔法少女は照れ臭そうに持っていた剣を肩に担いだ。
笑う彼女の姿を見て、まどかは彼女の名前を無意識に呟いた。

「さやかちゃん・・・」

「ふじのちゃんやマミさん、とまでは言わないけど・・・初めてにしちゃぁうまくやったでしょ。私」

まどかとふじのを交互に見て、水色の魔法少女、さやかははにかんだ。
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