DRAGON QUEST 5
□お化け退治inレヌール城
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アルカパに程近いレヌール城は廃墟となっていた。
その昔、レヌール城には逞しい王と美しい王妃が住んでいたという。
しかし2人には子供が出来ず、いつしか王家も絶え城からは誰もいなくなってしまったのであった。
そのレヌール城からは、夜な夜なすすり泣く声が聴こえてくるという……。
『いやーーーーーーー!!』
「ちょっ…結衣落ち着いて!!」
「大丈夫よ結衣!ビアンカおねーさんが手を繋いでてあげるからねー。」
真っ暗な空に鳴り響く雷鳴。
城につづく一本道の端の木陰で、結衣は絶叫していた。
ビアンカが宿屋の庭にいた詩人に聞いたレヌール城の話を教えたのだ。
『どうなってんのこの曇り空!アルカパにいた時は綺麗な星空だったよね!?
あれですか。この世界は天気なんか無視なんですか!本日はこの城の上空だけ、不安な曇り空です……なんてあっていいと思うのかーーーーーい!!』
「え!?そこなの結衣!?
雷とかお化けとかが怖いんじゃないの?」
『怖いから、必死に別のカテゴリーに変換して気を紛らわそうとしてるのよ!!』
「あ、結衣ほら!お墓が見えて来たわよ!」
『ひーーーっ!?なんまんだぶなんまんだぶなんまんだぶ……』
「「なんまん?」」
決死の思いで、墓の横を通ったのに、ドアが閉まってて開かなかったときは泣きたくなった。
呪文でドアごと燃やしてやろうかと思ったけど、呪われたら怖い。
魔物ならともかく、本物の幽霊は怖いです。
□■
「うん。ここからなら入れそうだよ。」
「裏口から入れるなんて、けっこう無用心なのね。」
正面のドアから入れなかった私たちは、裏なら穴か何かあるかもしれない、というアベルの提案で。
城の裏にある階段を登りました。
『うーん、ここは…裏口…なのかな?』
「魔物もいないみたいだし、中に入ろうか。」
『あうぅ……。』
やっぱり、入るのか。
いや、お化け退治に来たんだから入んなきゃ始まらないんだけども!!
怖いものは、怖い。
ーーーーぎゅ。
「大丈夫。結衣は僕が守るって言ったでしょ?」
『アベル…。』
同じ目の高さに、アベルの柔らかな笑顔が見えた。
あったかい手のひらは、「安心していいよ」と言われているようで。
強張っていた肩の力が抜けたような気がした。
「………ふーん。アベルったらそういうことね。」
「なっ何だよ、ビアンカ。」
「別にー。まぁ、負けないわよ?」
「え!?」
『ぬぇ?なになに??何の話??』
「(ぬぇ?)…結衣はまだ知らなくていいの。さ、いきましよ!」
何故かやる気満々のビアンカに疑問を浮かべながらも、片側の手を引っ張られていく私。
左手はずっと、アベルと繋いだままだから、アベルも引っ張られる形に。
ーーーあれ?何かデジャヴを感じるんですが。
「ビ、ビアンカ!引っ張らないでよ!」
「アベルが結衣の手離せばいいだけでしょー?」
「それはヤダ!!」
普通横一列に並んで、歩くものだが…もはやアリの行列のように縦に進んでいる私たち。
私なんかまっすぐ歩いてないんです。
カニ歩きっていうのかな。これ!?
流石にカニ歩きがしんどくなってきたので、私を挟んで謎の口論をしている2人に提案をすべく話題を切り出した。
手は離さない方向で、だ。(だって怖いじゃないか!!)
『ねぇ、2人とも。ここは横で一列に歩いたほうがガシャーーーン!!
ふぎょあーーーーーっっ!!??』
入り口に三人全員入ったところで、突然入り口に鉄格子が落ちてきた。
私はびっくりしすぎて、アベルの背中にダイブしてしまった。
「わあ!?びっくりしたーー。だいじょうぶ?結衣。」
「きゃあ!!??もう何なのよ突然!
ーーーって、これじゃあ帰れないじゃない!!」
『こんなお化け屋敷で定番です!!なんてありきたりなのいらないんだから…!
ふ…誰じゃこんなことしたのは!(怖い幽霊じゃなければ)おんどりゃ燃やしてやらー!』(精一杯の強がり)
それぞれが、ある意味個性的な感想を述べつつも。
幼児三人は進んでいくのでありました。
『え!?まだ行くの!?』
「他の入り口も探さなきゃ帰れないでしょ、結衣。さ、来る!」
『う…うぇぇーーーぃ……』
結衣はアベルのマントを涙で濡らしたという。
■□
嫌々ながらも、「これはネコちゃんの為。助ける為なんだ!」と勇気を振り絞り、ビアンカに連れられ進んだ先には。
これは関わっちゃあまずいだろ。というものが堂々と置いてありました。
『んぬあああぁぁ!?死体ーーーー!?』
「結衣、棺桶の上から聖水かけても意味無いんじゃない?
ぱっと開けて、逃がさないようにかけるのよ!」
「てゆうか、聖水が苦手なのは吸血鬼なんじゃ…………。」
準備は怠らないのが基本!の精神で、聖水もばっちり持ってきてた私。
棺桶=やばい、の方程式が成り立っている私はとっさに聖水をかけちゃったんだけど。
ーーーこれって魔物除けとメタル系に確実にダメージ与えるくらいしか使い道無かったような!!(今更)
ガコン……
(…………何か嫌な音聴こえたんですけど!!)
薄暗い部屋の中で聴こえた物音。
嫌な予感がする。とてつもなく嫌な感じする!
ーーガコン……ガコ…ガコン…
「「「うひょひょひょひょひょひょ!」」」
カタカタカタ!と骨を鳴らしながら起き上がって笑っているのはガイコツ…もといお化けな訳ですね。
私、こんな等身大で見たの初めてかもしれないなぁ。理科の実験思い出すわ。懐かしい!
ん?あれは人体模型か!更にリアルよね。あの模型は。中身無い分、まだマシかもねー!ふふ。
ーーーー良おぉーーし。みんなせーのーっで、はい!!!
「きゃーーー!!」
「うわあ!?」
『リアルがいこつ出たあぁぁぁぁぁ!!』
「「「うひょひょひょひょひょーーー!!」」」
私たちが驚き、恐怖の声をあげると嬉しそうに寄って来る、ぅぉおおおおおお化け!!
そりゃ、怖い思いさせてるんだから、楽しいでしょうよ。ええ!!
こっちは、ちっとも楽しくないですけどね!
「っこの!あっちにいけっ!」
アベルが銅の剣を振って攻撃!
がいこつはバラバラになって動かなくなった。(おお!効いてる!!)
「いいわよアベル!そのままコテンパンにやっつけちゃいなさーーい!」
『アベルすごいよー!カッコイイーー!!』
「!!(かっこいい……!)おりゃーー!」
結衣の発言を受け、がぜんやる気になったアベル坊はどんどんガイコツを相手に倒していく。
女2人は拳を高く上げて、応援中だ。
しかし、安心したのもつかの間。
背後に近寄ってきたものに気がつかなかったのです。
「全く……こんなやつらがいるなんて聞いてなかむぐっ!?」
『「ビアンカ!!」』
ビアンカの背後に映る、黒い影。
ビアンカは口を塞がれ、宙に浮かされている状態だ。
黒い影、もといガイコツの生き残りはうひょひょと笑っている。
『可愛いビアンカに何っってことすんのよ!今はロリ趣味が流行ってるとか世間の噂で流れてたけど、もうアンタは死んでるでしょうが!
今すぐ離さないとバラバラにして煮込んでスープのダシにしてやるんだから!』
「結衣の言うとおりだ!ビアンカを離せ!」
アベルは剣を。私は両手にメラミを構えて戦闘態勢をとる。
しかし、未だガイコツは笑い続けたままだ。
「むううー!むううんー!(アベルー!結衣ーーー!)」
口を塞がれながらも必死に声を出そうとする結衣。
大人と子供では身長の差がありすぎて、足を宙に浮かせている。
「…っこの!!」
『待って!』
今、アベルが動けば骸骨は後ろの階段に逃げるだろう。
先ほど襲い掛かってきた時の足の速さなら逃げられてしまうのは確実だ。
近づけば、逃げられる。
それならばーーーー遠距離攻撃!
『アベル!ここは任せて……っ!メラミーー!!』
狙うは、足元!
怖いなんて感情どこかにいってしまった。
一番怖いのはーーービアンカなんだから!
ーーーボカーーーンッ!!
『手ごたえあり!!』
「凄いよ結衣!あっビアンカ!」
私の放ったメラミは見事ガイコツの足に命中した。
捕まっていたビアンカを助けるべく、駆け寄った私とアベルだったけど。
「ひょひょひょひょ!!」
「しぶといのよ!アンターー!!この手を離しなさいよ!」
『と……飛んでるーーー!?』
信じられない光景だった。
足をやってしまえば、逃げられないだろうと踏んでいたのにあろうことか。
ガイコツは上半身のみになると空を飛んでいたのだ、ビアンカを抱えたまま。
『(め…めげちゃダメだこんな事で!)ビアンカ!無事ーー!?』
「私は大丈夫よ!もう一回攻撃を……っ!!??」
「ビアンカ!!」
それは、一瞬の出来事だった。
ガイコツが瞳から怪しい光を放ったかと思ったら、ビアンカもあのガイコツも消えていたのだ。
まるで、初めから誰もいなかったかのように。
『…っ嘘……そんな!ビアンカ!ビアンカ!!』
「結衣…っいきなり走ったら危ないよ!!」
『離してアベル!だって私のせいでビアンカが!!』
勝手な判断で、ビアンカを危険な目に合わせてしまった。
あんな小さな子を、得体のしれないお化けに攫われてしまったのだ。
(そんな…ビアンカ…!もし、殺すのが目的で攫ったのだとしたら…!)
『助けなきゃ……今すぐ助けに行かなきゃビアンカが!』
「結衣!!!」
アベルの、怒りを込めた声にビクッとなる。
今にも雫が零れそうな目でアベルの顔を見上げれば、いつもの穏やかな漆黒の瞳と目が合った。
「ビアンカが攫われたのは結衣のせいなんかじゃないよ。
それに、ビアンカはまだ無事だと思うんだ。」
『本当……?』
「うん。だってあのガイコツ、ビアンカを殺そうと思えばいつだって殺せたと思うんだ。
なのに、僕らに見せ付けるようにして逃げた行ったってことは、半分遊んでるんじゃないかな。」
『あ……遊ぶ……!?』
あんだけ怖い思いさせといて向こうは遊んでる!?
でも、確かにいつでも殺す隙はあったような。
あ、なんか怒りがふつふつと沸いてきたかもしれないです。
「僕が結衣だったら、きっと同じ行動をしたよ。」
『アベル……!!』
なんて、優しい子なんだろう。
そう思えば笑顔で差し出される手のひら。
「ビアンカを助けに行こう!……2人で!」
アベルと一緒なら、どんなお化けが出てきてもきっと怖くない。
2人ならどんな困難も乗り越えられる。
そんな、気がする。
『うん!』
君の手のぬくもりに、何度救われただろう。
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