DRAGON QUEST 5
□暖かい場所
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「ただいまーーお父さん!サンチョ!」
「おかえりなさいぼっちゃん!」
「おかえりアベル。
………うん?ずぶ濡れじゃないか!
それに…その子は誰かな?アベルの友達か?」
「うん!洞窟で会ったんだ!ねっ結衣!」
『は…初めまして…ズルッ。』
記念すべき主人公の父親(+従者)との初対面はびしょ濡れ(鼻水出まくり)というなんとも恥ずかしい事になりました。
□■
結局アベルまで巻き込み池にダイブした私は「このままじゃ風邪ひいちゃうから、僕の家行こう?」というありがたい好意に甘えてお邪魔することに。
ちなみに今はお風呂を貸してもらい、入浴中。
「ピキーー!」
『ふふー、気持ちいい?スラリン。』
スラリンというのは、最初に私の鼻に噛み付いたスライム。
あれから置いていこうとしたら「ピキーッ!」と泣かれてしまったので結局仲間になった…というわけである。
ちなみに、最初はアベルとどっちが先に入るかもめていたのだが(お互いに先に入ってと言い合っていた)
私が「あ、じゃあ一緒に入ろう?(今子供の姿だから恥ずかしくないし)」と、笑顔で誘ったら顔を真っ赤にして風呂場のドアを強制的に閉められました。
うーん、現代の子供達は恥ずかしがり屋さんなのかな?
私がアベルくらいの時は平気で裸で庭の簡易プールで遊んでたわ……(しみじみ)
「ピキー?」
『あ、そうだね。早く出ないとアベルが寒いわよね!』
スラリンを抱いて湯からあがる。
そーっと服を脱衣所に持って着てくれたアベルとご対面するのは数十秒後の事であった。
「うわっ!?結衣!?ごめん!すぐに出ていくか
ゴン!!!!
『きゃーーアベルーー!!?』
結衣の悲鳴に何事かと駆けつけて来たパパスは2人の状況(バスタオル一枚で必死に心配する結衣+それを見てはいけないと必死な息子)を見て久しぶりに豪快に笑ったという。
■□
まぁ、そんなこんなでアベルもお風呂に入り終えたわけですが。
『あぅぅ…ごめんねアベル。
私またアベルに余計な迷惑を……っ!!』
アベルに持ってきてもらったワンピースを着て平謝りする結衣。
デジャヴなような気がするのは間違いでは無い。
アベルはというとまだ少し赤い顔をふるふると横に振って。
「えっ!?違うよ結衣のせいじゃ無いよ!
それに…みっ…見ちゃったし……」
『ふえ?』
「なっ何でもないんだ!」
どうやらアベルはまだ幼い年にしては男女をちゃんと意識しているようである。
もちろんその辺のおませさん、という意味ではなく尊敬する父親から「女の人には優しくするんだよ」という教えを真剣に守ってきたからである。
しかしそんなアベルも小さい時に幼馴染と裸の付き合い(風呂)をした経験はあるというのに、今日知り合った自分と同じくらいの女の子の裸を見て照れるのは何故かーーなんてまだ6才の少年に分かるはずもなかった。
『そっかぁ。もうたんこぶ痛くない?』
「う…うん…。」
にこにこと笑う結衣とその笑顔を見て照れながらも笑う息子を見ていたパパスはわが子の記念すべき初恋にゆっくりと微笑んだのであった。
□■
結衣は緊張していた。
アベルと最初に話した時も緊張していたがこれほどでは無かった。
今こそ子供の姿だが、結衣の中身は20を超えているのだ。
実際だと年が近いイケメンなパパに緊張してドギマギするのは当たり前である。
『あのぅ……。』
「うむ?どうした?」
そう言って端正な顔の白い歯を見せてニカッ笑ったパパスさん。
ひょえああああ!!かっちょえぇーーー!
………じゃなくって!!
『あの!お風呂貸して頂いてありがとうございました!』
「ハハハ!そんなのは構わんよ。
これからもアベルと仲良くしてやってくれ。」
『は…はい!』
な…なんて良い人!!
アベルのあの可愛い笑顔もいつかはこんな男前な笑顔になるのかしら!!
結衣はアベルの可愛らしい笑顔を思い出しつつ。
「ふふふーv」と将来を妄想していると、突然パパスによって予期もせぬ爆弾が落とされた。
「ふむ。もう暗くなるし、家まで送っていこうか。
結衣の家はどこかね?」
大ぴーーんち!!
(うわ私ったら自分がトリップして来ちゃったことすっかり忘れてたわ……!!)
度重なるハプニングで自分に帰る家がこの世界には無い、という事をすっかりうっかり忘れてしまっていた結衣である。
どうしようかと試行錯誤している結衣に気付いたのかパパスが結衣と同じ高さになるようにしゃがみこんだ。
「親御さんと…ケンカでもしたのかな?」
ん?どうやらパパスさんは私が親とケンカをしたから帰りにくいと思っているようだ。
私は慌てて弁解する。
『あっ違うんです!
私には帰る家が無いってだけで…っ!!』
「!?帰る家が無いだと!?」
『あっ!?…その…(本当の事言ってどうする私ーーー!?)』
後悔時既に遅し、とは正にこの事である。
(うぅ…こんな事言ったらパパスさんを困らせるだけじゃない…。)
結衣が己の未熟さにちょっぴり涙を浮かべていると、暖かくて大きな手が頭の上に落ちてきた。
どうやら撫でられているらしい。
『ふぇ……?』
「すまない……酷な事を聞いてしまったな。」
違うんです!!泣いてたのは自分が不甲斐無しだからなんです……!!
と誤解を解くために言葉を発しようとした、瞬間。
『ひょわ!!?』
結衣の体が持ち上げられた。
パパスの顔と同じ高さになる。
そんなパパスは結衣を見てニコニコと笑っている。
(え…えぇっと……??)
意図が全く掴みきれない結衣は首をかしげて目の焦点が定まっていない。
そんな結衣を見てパパスは言った。
「良し、結衣。
今日から結衣は私の娘だ!!」
『どえええええええ!!??』
なんとも突然な家族宣言を出されてしまった結衣は驚きの声をあげた。
「えっ!?結衣お父さんの子になるの!?」
『あ!アベル!!』
いつの間にいたのだろうか。
パパスに持ち上げられている私を見上げているアベル。
(そうよね。いきなり自分の父親が今日知り合ったばかりの子供を身内にするなんて嫌よね………!!)
そんな考えが頭によぎった結衣であった………が。
「うわぁ!結衣これからずっと一緒にいれるの!?」
「あぁ!家族だからな!」
「やったあーーー!結衣これからもよろしくね!」
『(めっちゃ喜んでくれてるー!?
いや、すごく可愛いんだけどそんな簡単に受け入れちゃっていいの!?)う…うん。』
勢い(+アベルの笑顔)に呑まれつい肯定の返事をした結衣であったが。
……良いのか!?本当に良いのか!?
結衣がそんな事を考えているうちに、彼女の服やらご飯やらベッドやら、様々なものが着実に決まっていった。
召使のサンチョは新しい家族誕生(?)に目を輝かせて家事をいつにも増して張り切り『サンチョさん。これからよろしくお願いします』と結衣が挨拶をしに行くと「サンチョは感激です!お嬢様ーー!!」と言い強烈なハグをしたりと。
(パパスとアベルはそれを見て苦笑い)
微笑ましい家族の風景、だと思います。
サンタローズ、天気は晴れ。
本日結衣はアベルの家族になりました!
「ピキーー!」
『あ、スラリン。一緒に寝よっか!』
「あっ結衣!僕…も!一緒に寝る!」
ちゃんとベッドは2人分あるのだが。
こんな可愛い子に枕を両手に持ってお願いされて断る人なんていないんじゃないんだろうか。
『ふふっじゃあ三人(?)で寝よ!』
その日、一つのベッドに子供2人とスライムが身を寄せ合ってすやすや眠っているのを大人2人が微笑ましく見ていたという。
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