DRAGON QUEST 5

□出会いは突然に
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『いやあああああああああ!!』

「「「ピキーーーーー!!」」」


薄暗い洞窟の中で一人の少女を追いかける大量のスライム。

こんな光景を誰が予想しただろうか。
いや、予想できるはずもなかっただろう。



事の始まりは数十分前の出来事であったーー。






■□






『えーーと、牛乳にパンに料理酒…っと。
けっこう重いなぁ、もう!
おばあちゃんもこんな量一人で買いに行こうとするなんて……全く。』


文句を少し言いながらも、重たい袋を片手にぶら下げている少女…といってももう20代なのだが少し年幼く見える女性が歩いている。

彼女の名前は結衣。
現在祖父母と三人で暮らしている。



『うーーん!
気持ちいい天気。一回でいいからこんな空の下を自由に冒険してみたい…なーんて。』


上を見上げて目を細める。
こんな事を思うのは、自分がゲーマーだからかもしれないなぁ。と苦笑しながらも歩くスピードを速めた。





いつもの日常。

ずっと続くと思っていた毎日。

本当に誰が予想しただろうか。




『えっ……何?』


突然自分の地面の半径2メートル程が真っ暗な闇に包まれた。
急いで周りを見渡してみても誰もいない。

本能的に危機を察した結衣は動こうとした…が何故か金縛りにあったように動かない。


(か…怪奇現象!?いや、こんな昼間にあるわけないか。
今私に武空術とかあったらばびゅーーんって関係なく飛べたのかなーー

なんてこんな事考えてる場合じゃないわ!!


人間危機に陥った時ほど冷静になる現象とはこの事なのかもしれない。
いや、こんな事を考えるのは彼女だけなのかもしれない。

しかし運命はむなしく結衣がそんな事を考えている間にいつの間にか出来た闇の穴に彼女を真っ逆さまに落とすのであった。


『いやあああああ!!!!』





ーーーぶよん!!






もっと長い間落ちると思っていたが思いのほか穴は低かったようだ。


(てか「ぶよん」って何さ…?)



普通ドサッ!!とかもう少し鈍い音が鳴る筈である。
もちろん結衣は受身もとれない一般人であるわけで背中からもろ落ちたのはいうまでもない。
そうすると「何か」をクッションにした……という結論にたどり着くわけで。


そろーーー。


そんな効果音が鳴りそうなぐらいに結衣は自分が押しつぶしてしまったかもしれない「何か」を見た。



「「「ピキャアアア!!!」」」

『にょわーーー!!??』



あまりの大きな鳴き声に結衣はその上から転がって落ちた。
そろりと見た大量の青い生き物は目を三角にして怒っていたのである。

そりゃあいきなり上に乗っかられたら誰だって怒るだろう。

いや、それよりも気になることがある。
この青くて三角に丸みを帯びた体に丸い目(今は怒ってるから三角だけど)
そして身をもって体験したあのぷるぷるの感触…。


『何だかすごく見覚えのあるキャラクターのような気がするのは気のせいでしょうか…?』


果たして誰に問いかけているのやら。
自分の口調すら忘れてすっとぼけた彼女である。

しかしありえないことが目の前で起こっている。
あの国民的RPGゲームの看板モンスターとも言える生き物が目の前で大量に結衣の前にいるのだ。


『ス…スライム…?』

「「「ピキーーーーー!!!」」」



結衣がその名前を言った瞬間スライムたちが飛び出してきた。
そりゃあもう、恐ろしい形相で。


スライムって…歯あるんだ…。


べちん!!


『ひゃう!!??』


幸か不幸か。
いや、この場合は幸運だったのだろう。

一匹のスライムが結衣の顔面にタックルしたのである。
その瞬間、驚きの余り尻餅をつき、他のスライムからの一斉攻撃ははるか後ろにはずれたのである。


『いだいいだい!!!』

「ピキーーー!!」

結衣の顔面という地面に正確に着地したスライムは鼻に噛み付くという報復をぞんぶんにしていた。

しかしそれで、正気に戻ったのか結衣は一匹のスライムを鼻にくっつけたまま、大量のスライムから逃げることにした。


----そして現在に戻る。




『いっやあああああ!!』

「「「ピキーーーー!!」」」



何とか顔面からスライムをひっぺがしたものはいいが、群れへ返す暇など全くなく追われ続けていた。

現在、何故か顔面たっくるスライムは抵抗することもせず大人しく腕の中にいる。

(どうせなら最初から大人しくしてて欲しかった……!!)

痛む鼻を思いながら切実におもう結衣である。

しかしやはり悲しきことに一般人であるせいか、凄まじい体力があるわけでもなく、振り切れるだけの超人的なスピードなんてあるわけもない私は追い詰められてしまうわけで。

『…ハァ…ハ…。』

「「ピキィィィ!!」」

体力は限界だった。
少し震えているスライムを抱えるように抱きなおした。
スライム郡達は怒りで我を忘れてしまってるようだし…。


(あぁ。私の人生まさかのスライムに殺されて終わりなんですか……!!)


「「ピキャアアアアア!!」」

『……っ!!』


万事休す。
大量のスライムが目の前に飛び掛ってきた。
後ろは壁。今度こそ避けられない。



「バギ!!」


突然男の子の声がした。
目の前で風が巻き起こる。
スライム達は「ピキ!?」と言って逃げていったようだ。


一体何が起こったのか。
状況を把握できないままスライムを抱えて呆然としていると、男の子が声を掛けてきてくれた。


「君だいじょうぶ?怪我はない?」

『う…うん。だいじょうぶです…。』


まだ幼い、6歳ぐらいであろうか。
頭に紫色のターバンを巻いて、マントも同色の色で……


『あああああーーー!!!』


突然の叫びにびっくりしたのは少年だった。
目の前の少女は自分をしばらく見た後にいきなり叫んだものだから、驚愕するのも当然である。
「えっ!?どうしたの!?やっぱりどこか痛いの!?」
しかし心優しい少年は、そんな少女を気遣うように優しい言葉を掛けた。

しかし現在結衣は目の前で起こった奇跡に大パニックであった。
目の前の少年は、あの国民的RPGゲームの主人公の一人であるに違いないからだ。

(た…確か5だったと…!!)

いや、今はゲームの出てきた順番なんぞ気にしている場合では無い。
助けてくれたお礼を言ってないじゃん私!!
大人として恥ずかしい行為じゃないか!!


『ご…ごめんね。突然叫んだりして。
助けてくれてありがとう。』


謝罪とお礼を笑顔で言えば、少年は子供らしい笑顔を浮かべてくれた。


「どういたしまして!
僕はアベル。君は?なんていう名前なの?」

『え…えと結衣っていうんだけど』


「そっかぁーー結衣って言うんだね!宜しくね!」
なんて可愛いらしい笑顔でいうアベル。
あぁ、可愛いなぁ。息子に欲しいくらいだよ…。
いや、でもそんな小さい子に言い聞かせるような聞き方って何!?
一応私あなたより一回りは年いってるんだけど……。


そんな事を思いながらふとアベルを見た。
私とほぼ同じ目線でニコニコ笑っている。




…………同じ目線で?



『あのね…アベル…。
私って…いくつぐらいに見えるのかなぁ…?』

おそるおそる聞いてみた。
本当にありえない。そんな事ある筈がない。

「そうだなぁ…背はぼくの方がちょっぴり高いけど、僕と同じくらいじゃない?」

『嘘ーーーー!!??』


まさかの若返り!!
いや、むしろ背だけ低くなったとか…。
しかしふっくらしたほっぺたとか手とか、少しばかりあった筈の胸が悲しいほど絶壁になっていることでその仮定は消え去った。


『いや……この目で確かめるまで諦めるわけにはいかんわぁぁーー!!


もうヤケである。
突然穴に落ち、スライムに襲われ、若返りなんて…。

ありえないだろう!!

結衣は近くに見えた池で自分の姿を確かめようと一目散に走った。


「あっ!!結衣だめだよ!!
そんなに勢いよく走ったら転んじゃうよ!!」


アベルが慌てて声を掛けたが、すでに結衣は池の手前のぬかるみに足を滑らせていた。



ドボーーーーン!!





『はっ…鼻に水が…っ!!
ってアベルーーーーーーー!!??』


勢いよく飛び込んだのは自分だけでは無かったらしい。
とっさに自分をかばってくれた(巻き込んだともいう)アベルに謝罪を繰り返す結衣であった。



















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