DRAGON QUEST 5

□身分も種族も飛び越えて
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「よく聞け!オレはラインハット国の第一王子、ヘンリー様だ!
オレの領地(部屋周り)を荒らすやつは何人たりとも許さんぞ!」


いきなり現れたおかっぱ頭の少年は呆然とするアベルの前に仁王立ちしニヒルな笑みを浮かべている。

「ん?お前か。オレの領地の前で騒いでたやつは。
ふん、弱そうなやつ。一体何を騒いで……」

『アベル、へいき?』

「え……あ、うん…。」

結衣はアベルの前に立つヘンリーをやんわり押してアベルの手を引いて立たせた。
ヘンリーに構うことなく、アベルについてしまった埃を払う。
いきなり自分の視界を遮った少女にヘンリーは眉間に皺をよせた。

「……ッおいコラ!このオレを押しのけるなんて、後でどんな目にあうか分かっているのか!?」

「(ムッ……)君……『アベル、ここは任せて。』

怒鳴りつけられているというのに平然とした態度をとる結衣にヘンリーの怒りゲージは上がっていく一方だ。
すると結衣は、少し奥の扉の方角へ目をやるとアベルに制止の言葉を放ちヘンリーに対してにっこりと笑った。


「(ドキッ)う……!?な、なななな何だよ!!??」

『大変なご無礼をした事、申し訳ありませんでしたヘンリー王子。
以後気をつけますので、今回の事は王子の寛大なお心で見逃しては頂けませんでしょうか?』

「……フン!ま、まぁオレの心は海より広いからな、許してやらない事もないぞ!
ありがたく思いたまえ!」

『(にっこり)……ありがとうございます、王子。』

「う……っ(かあああぁ)」

「………(なんか、おもしろくないなぁ)」


結衣の巧みな話術により、すっかり手のひらの上で操られたヘンリー。
微笑みかけられ真っ赤になるヘンリーとは対照的におもしろくないオーラを漂わすアベル。
そんな中、ちびっこ3人に聞こえた足音がひとつ。


「ほぉ。アベル、結衣。もうヘンリー王子と仲良くなったのか。」

「お父さん?」


やってきたのはパパスだった。
結衣達三人の姿を見て驚いているのは、ヘンリー王子のいたずらの数々を聞かされていたからだろう。


「なっ……オレはこんな庶民のぼんくれとつるむ気なんか『はい。ヘンリー王子様はさっきから私達にとても良くしてくれてるんです。』は!?」

「おおそうか!王に相手役を頼まれたのだが、お前達のほうが年もあうし楽しいだろう。
アベルに結衣、任せてもいいか?」

「な……っオレ抜きに話を『はい!任されましたっ!王子様、ご迷惑をおかけするかもしれませんがよろしくお願い致します(にっこり)』……良し、たまには庶民の相手もしてやろうではないか!!」

「では、頼むぞ二人とも。」

『ラジャーです!では、王子様。お部屋にお邪魔させていただきます。
ほら!アベルも早く早くっ』

「ちょ、結衣………っ」


ーーーバタン!


「あのいたずら王子で有名なヘンリー様とすぐに友達になるとは……ふむ。
しかし、気のせいか……結衣の目が赤かったような気がするが…。」

1人残されたパパスは少女の身を案じていた。



■□



駆け込むようにしてヘンリーの部屋に(押し)入った結衣達ちびっこ3人。
はんば強引に結衣に手を引かれたヘンリー。
怒るかと思っていた結衣だったが、予想は大きく外れていたのだった。


『え〜と、王子様。そろそろ離して頂けたら嬉しいんですが。』

「まぁまぁ照れることはない!そもそも結衣……だったな。お前から繋いできたのではないか!」

『(繋いだというより引っ張ったんだけども!)』

最初のアベルへの対応を見てヘンリー王子のやんちゃぶりを見た結衣は、パパスさんに迷惑をかけまいと(それこそ普段なれない丁寧語を使ってまで)見栄をはってしまったのだが。
……アベルに蹴り技をくらわした事といい、人の意見を聞かない事といい……とんでもないがきんちょを預かってしまったものだ。


「ねぇ、王子様……。そろそろ僕とも遊んでくれません?例えば腕相撲とか。」


突然、アベルが2人の間に割り込んできた。当然捕まれていた手は離れる。
少しびっくりするもアベルの素敵な(黒い)爽やか笑みを浮かべていたのをちらりと見て納得し少し後ろに下がった。(理由は分からないが巻き込まれたくない)

『(なぜに腕相撲をチョイス?)』

「フン何だ!誰がお前なんかと……い゛でてててて!!??」

「僕、力が弱くて王子様みたいな強い人(たぶん)には到底敵わないと思うんだけど……ねぇボロンゴ?」

「ふみゃあん。」

ギリギリと音がするかもしれない一方的な腕相撲に耐え切れなかったヘンリーが強引に手を振りほどき、結衣の後ろにささっと隠れた。
震える姿はさっき仁王立ちしていた人物とは思えないほどだ。
ヘンリーは結衣越しにアベルとボロンゴを見て。


「な、何だお前!王族であるオレの腕を折る気か!!?
第一……ずっとネコだと思っていたが、ま、まままま魔物じゃねぇか!!!今すぐ追い出せ!」

「ボロンゴは何もしないよ?今だって君と遊びたそうにしてるし。」

「なっ……王族であるこのオレにタメ口だと!??」

「王族とか庶民とか……さっきからいうけど、
ともだちになるのに関係あるの?
ボロンゴだって、魔物だけど僕も結衣も友達になれたし。」

「……変なやつだな、お前。」


まじまじとアベルを見つめたヘンリーは少し考えてからじっとボロンゴを見た。
そんなヘンリーを見た結衣は少し微笑んでヘンリーの腕を掴んだ。

「な、何だよ!?」

『ボロンゴーーおいでーー。』

「ふみゃん!」

「待て待てオイィィィィィ!!?」


抵抗するヘンリーを無視し、喜んで駆け寄ってきたボロンゴの額にヘンリーの手を当てる。
一瞬びくりとするも、動かすたびにボロンゴの表情がくすぐったそうに緩めるのを見てヘンリーは一瞬だが微笑んだ。ニヒルな笑みではない。結衣とアベルは彼自身の本来の笑顔を見た気がした。

『ね?アベルの言うとおりでしょう?
ボロンゴはお腹も触らせてくれるんですよ。』

「身分、とか関係ないよ。えと、ともだちになろうよ!」

今のところかなりいい雰囲気だ。
友達という称号をもらえればアベルに対しあんないじわるではなくなるかもしれない。
……なんだか純粋にアベルが友達になりたいと考えているのに対し自分のこの冷静分析はなんなんだろうか。

しかし、ヘンリー王子の性格は結衣とアベルの予想をはるかに上回った。


「………“ともだち”なんぞいらないな。まぁ子分にならしてやってもいいぞ!!」

「『は!??』」


(子分!?アンタどこの餓鬼大将ですか!!?)

親子そろって突っこみたくなる性格してるなラインハット王家!!
結衣はこの破天荒な王子様の性格に頭を抱えた。
怒っちゃいけない、これは王子様。腐っても王子様、いたずらの度が過ぎてる王子様……。

結衣が心の中でどうしても思ってしまう悪口を呟いていると、ヘンリーは部屋の奥を指差した。


「よし!向こうの部屋にある宝箱から子分の証をとってこい!」

「ちょっと!僕らは君の子分になるなんて言ってないよ!」

『………分かったわ。じゃあ私が取ってくるね。』

「何言ってるんだ。全員で行かなきゃ子分とは認めねぇぞ!」


わがまま小童め……!と思ったのはどうやら結衣だけでは無いらしく。
アベルはおろかボロンゴまで怪訝な顔つきだ。
そのまま突っ立っていても、また弾丸トークが飛び出してきそうなので結衣達は大人しく部屋へ向かった。


「へへっ……悪く、思うなよ!」


結衣達が出て行った後、ヘンリーがニヒルな笑みを浮かべて隠し階段を降りていったのも知らずに。



■□


隣の部屋を訪れていたアベルと結衣の空気は重苦しかった。


「はぁ……、僕苦手だな。あの王子様。」

『……あのね、アベル。ヘンリーが友達じゃなくて子分って言い張るのは理由があるんだよ。』

「……結衣?」

『今、ラインハットは王家の問題で大変でしょう?
次の王様を決める争いで……友達は、作れないんだよ。今まで何度も騙されてきたんじゃないかな。』

「ふみゃ………。」


初めから分かっていた事だ。王家継承の争いが起こっていると聞いたときから。
きっと、巻き込まれている継承者の子供はどんなに辛い思いをしているだろうと……。


「……そっか。それじゃあ僕達がヘンリーのともだち第一号、二号だね!」

『へ?』

「えと、子分って言われちゃったけど。仲良くなればともだちになれるよ!
結衣だって、そう思うでしょ?」

純粋な瞳で微笑まれ、手を伸ばしたアベル。いつもなら結衣も笑顔で返す、筈だった。


「結衣なんか大嫌いだ!」


『…………っ』


ーーーバッ


目を逸らして、手を伸ばすのをやめた結衣。


「あ……えと、僕……。」

『……そうだよね!早く子分の証をとって見せに行こう!
そんでもってゆくゆくはお友達だよ!』


ぱっと笑顔を見せる結衣。
ーーーそうだ、何故気付かなかったのか。

さっきアベルが放った一言以来ーーーー結衣は一度もアベルと目を合わせていないことに。


『あーーー!??何これ、馬鹿って書いてある!
あんのくそ王子ーーー!』


結衣の笑顔は、僕が守るって誓ったはずなのに。







無理に笑顔をつくる君。そうさせたのは、僕。

 

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