あの空の向こう側に

□意志
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陽路side





湊君の病室を出てから、そのままさっき居た診察室まで戻る



ドアをノックして、中からの返事を待ってから部屋に入った




「竜樹」






さっきと違ってコーヒーの匂いが充満している部屋



二人掛けのソファに座り、テーブルにパソコンと資料を広げて、マグカップの中身を啜る竜樹がそこには居た







「いらっしゃい。コーヒー飲む?」




「いらない」




「さっきの、まだ怒ってんの?口滑っちゃっただけじゃん。ごめんって」



「怒ってない。ここ私物化すんなっていつも言ってんだろ」



「はーい。今日もう終わったからさ、まだ少しは時間あるでしょ?ここいなよ」



「だから、人の話を」



「陽路、ここ」





それだけ言って、一人分空いている竜樹が座る隣を、ぽんぽんと叩く





「いい子」



「年上馬鹿にするなよ」






おとなしく従って、竜樹の隣に座れば、ポンと今度は俺の頭を撫でた



俺より大きな手に、少し腹が立つ




パソコンと資料に目を通すことを辞めずに、竜樹は話し始めた







「さっきの子。瑠衣君、だっけ」



「うん」



「湊が珍しく人の話したからさ、びっくりしたよ」



「湊君が人をあんなに怖がらなかったの、初めて見た」



「今、二人なの?」



「うん。一応、すぐ連絡は貰えるようにしておいたけど。大丈夫かな」






これは、小さな賭けだ



駄目もと、それくらい賭けにもならないだろうとも思ったけど。




湊君にとって、岡安君は多分特別な存在なのだ



もしかしたら、悪い方に転がるかもしれない



もっと、湊君が人間不信になるかもしれない



そんなリスクがあるのに、医者として間違っているのかもしれない



でも、






「陽路は変わって欲しいんでしょ」



「……なんかね、岡安君なら大丈夫な気がしたんだ」




「そっか」




「駄目、だった?」






カウンセラーの竜樹に、何の相談もなしに勝手に二人にしてしまった


竜樹は、とめるだろうか







「湊次第だな。大丈夫だよ」





そう言って竜樹は、優しい顔で笑った







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