another story

□非常階段にて。
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まだ藍原は忙しいだろうか。外来の診察の時間が終わるころを狙って来たからそれほど邪魔にはならないだろうと思ったのだけど。

けれど、早くここから出たかった。どうしたって、もしもの悪い話が頭をよぎった。


受付に声を掛けると藍原が言っていたように受付も分かっているのか、すぐに藍原の診察室に通してくれた。


そういえば藍原に会うのも久しぶりだ。電話が来ることは相変わらずあるけど、特にわざわざ会う理由もなかった

診察室の扉をコツ、と一つノックをすれば、どうぞ、と声が返ってくる。

やっぱり電話越しの声よりも少し高く聞こえた。

仕事中だからというのもあるのだろうか



「こんばんは」



扉をひけば、椅子に座る藍原とすぐに目が合った。

何かしら作業をしてると思ったのに、こっちを見ていたものだからなんだかどうしていいか分からなくて思わず目をそむける。




「よ、」


「ひさしぶりだね、元気だった?」


「別に久しぶりでもないだろ、電話してるんだし」


「相変わらず釣れないね君は」



「うっさいな。祐希の薬、貰いにきた」




はいはいと、呆れたように笑う藍原

相変わらず、藍原も飄々としていた。

それに元気そうだし、別に心配もしてなかったけど、それにはなんだか安心したし、来てよかったとも思った。



「いつものだから特に説明もないんだけど、なにかあればすぐ連絡くださいって伝えて。祐希君にも、少しでも体調が良くなかったら遠慮しないで電話してって」


「りょーかい」



ガサガサ鳴る白い袋を渡しながらそう伝えてきた。
祐希もこんなに沢山の薬が必要なんだよなと思うとなんだかやるせない気持ちになった
喘息の薬だけじゃない。安定剤や栄養剤のようなものも一緒にこの袋に入っているのを、俺は知っている。




「今日、もう夕飯は済ませた?」


「え、いや、まだだけど」


「少し待ってもらうことになっちゃうんだけど、一緒にどうかな」




突然の誘いに、思わず、えと声がでた

いつもなら祐希の夕飯があるからと理由があるのだけど、今日は稚早が祐希の所に遊びに行っていて夕飯も作ると言い出していたのだ

今頃2人でキッチンにでも立っているのだろう


だから連絡を1つ入れれば帰らなくても何の問題もないのだ。

断る理由もなかったから、頷いて返事をしようとしたけれど、ふとさっきの事を思い出す。



「やっぱ…俺、」




そうだ。もしかしたら、そんなわけないけど、あいつがここに来るかもしれないんだった

こいつと話してたらなんだか気が抜けて忘れていた

こんなゆっくり話してないで、早く帰らないと




「いそがしい?無理強いはしないけど」




その声に、心が揺れる

俺がこのまま帰るともう一言いえば、藍原はなにも言わずにまたねと手を振ったのだろう

なのに俺は、なんでかその一言が頭に浮かんでこなかった。



「別に待っててやってもいいけど。忙しくないし」


「そっか。じゃあ残った仕事片づけちゃうから何食べたいか考えておいて。終わったら声掛けるよ」





ばかだなあと、自分でも思った

でも、きっとさっきのあれは聞き間違いか、そうでなくても別人の話だと思えばなんてことないのだ。

そう思うと、ただ断る理由もなかったから誘いに乗っただけ、それだけの話だ。


けれど何故か頭に過る嫌な予感は拭えなかった




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