another story

□非常階段にて。
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翔太side


なんてことない、穏やかな夕方だった。

学校の帰りで藍原の勤める病院に向かっていた

病院に向かうと言っても俺自身は何の問題もなく、至って健康だ
今日は祐希の薬を受け取りに来たのだ。
いつも飲んでいる薬が切れてしまい、兄貴も時間が作れずに直近で取りに行ける日がなく、祐希も前にあった事が理由で病院が苦手というより駄目なのだ。それを聞いた俺は丁度バイトもなくて取りに行けるため俺が来ることになった


病院に一歩足を踏み入れれば、アルコール消毒の匂いのせいか少しだけひんやりとした感じがする

藍原のいる科に行って、受付に声を掛ければいいらしい。藍原本人が事前に連絡を取ったときにそう言っていた


外来や面会で来ている人も多いのだろう。院内は忙しそうに人が行き来していた


藍原もまだ忙しいだろうか、そう思いながら藍原のいる所の方へ向かっていると、



「もしもし、京介様」




通りすがったその声に、思わず足が止まる。

待合のベンチがあって、白い壁があって、観葉植物が置いてあって。
ここは紛れもない病院だ。
ここは会社なんかじゃないのに

京介、なんて、珍しい名前じゃない。

それに聞き間違いかもしれない。

おなじ名前をただ聞いただけだ。なんてことないそれだけ。

だけど、振り返らずにはいられなかった。




「いまですか?少し戻るのに時間が掛かるかもしれません。え、あの、…今ちょっと病院に。…あ、いえ大丈夫です一人でちゃんと戻れますから!ちょっと聞いてます京介様!あ、」



公衆電話そばに居たスーツの男の後ろ姿。耳に携帯を当てて、少し慌てたような


相手が先に電話を切ったんだろう。電話を耳から離して後ろ姿からでも肩の落とし具合から困ったように画面を見つめているのが分かった。



いや、落ち着けって、あの京介じゃないに決まってるだろ。そんな偶然。

でも、もしその京介が、あの京介だったら?

もし、男の人が京介の知り合いで、京介がここに来るとしたら?


そう考えただけで、焦りで鼓動が高まった。


急いで用を済ませて、帰らないと


会わないように、逃げないと






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