小話
□七夕と称した夏祭り話
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誰もがせわしく歩いている中で、一人だけ不安定に歩いているからかなり目立っている。
顔などは薄暗くてよく見えないが、横に結い上げた髪とピンク色の浴衣が際立っていた。
興味本位で眺めていると、そのギャルは人波にもまれてこちらの方に近づいてくる。
よろける度に花の髪飾りが大きく揺れた。
…危なっかしい子だな。
そう思った時。
突如そのギャルはつまずいて転びそうになった。
危ない…!
気が付けば思わず手を差し伸べていた。
「…っ、すまない」
俺の手を掴み、何とか体勢を持ち堪えたギャルは俯きながら小さく呟いた。
どういたしまして。
そう言おうと思ったが、妙な違和感を感じ言葉は詰まる。
あれ…どっかで聞いたような声…。
首を傾げる俺をよそに。
乱れた髪を整えてギャルは顔を上げた。
そこで俺は初めてその容貌を拝むこととなる。
提灯の灯りに照らされて、はっきりとするその姿に俺は驚きを隠せなかった。
艶やかな赤髪に冷たい印象を与える銀色の瞳…。
…シルバーと同じ……そうシルバーと……ん?
嫌な予感がした。
…もしかして、目の前のギャルは、いやギャルだと思っていたこの子は……
「し、しし、シル…っ!?」
シルバー!?
そう叫びかけたところで、ぬっと伸びた手に突然口を塞がれる。
「…馬鹿っ、大声出すな…!」
顔を真っ赤にしながらギャル…もといシルバーは静かに怒声を発した。
そのまま石段を越えた草むらの中へと俺を引っ張って行く。
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