小話

□服従の証
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「お前の忠誠心を俺に見せてみろ」

そう言って男に渡されたのは、一振りのナイフ。
シルバーは渡されたナイフを一度見つめ、そして男を見上げた。
その顔には戸惑いの色が濃く表れている。

「…ワタルさん、これは…?」

ワタル、と呼ばれた男は不敵な笑みを浮かべただ笑っていた。
その表情とは裏腹に、無機質な瞳が冷たくシルバーを見下ろす。

いきなり何だ。…この人は一体何を考えて……。

シルバーがワタルの下につくようになってから、ある程度の日が経ったが。
未だ彼にはワタルの考えていることが読めなかった。
それは初めてワタルと対峙した時からずっと感じていたこと。
…まさかこれで自分の体を傷付けてみろと言うのではなかろうか。

そんなことを思うが、シルバーの考えに反しワタルはあっさりと
「…それで髪を切れ」
とだけ言った。
その言葉に対しシルバーは一瞬だけ驚いた表情を見せる。
が、すぐに躊躇うことなくナイフを己の髪に当てた。
そのまますっと刃を引くと、艶やかな赤が宙を舞う。

その様子にワタルは「ほう」と感嘆の声を漏らした。

「躊躇なく切るんだな」
「…俺は女じゃありませんから」

髪なんか別に惜しくない。
そう呟き、はらはらと落ちていく髪の毛を見つめた。
その脳裏には一人の少女が浮かぶ。
彼が実の姉のように慕う少女が。

“シルバーって、綺麗な髪しているわね”

そう言って彼女が髪を撫でてくれた幼い頃の記憶がふっと甦った。
血のように真っ赤な髪を綺麗だと彼女はいつも言っていた。
…その頃からだっただろうか。
密かにコンプレックスだと感じていた自分の髪が少しだけ好きになれたのは。
……伸ばそうと思ったのは。

「…」

取り憑かれたようにシルバーは、床に散らばる髪の毛を見つめていた。
が、それもほんの数秒のことで、何かを振り払うようにして彼は首を横に振る。
そしてすぐに髪の毛から目を逸らした。
その様をワタルは始終冷えた瞳で眺めていた。
今だ口元には歪んだ笑みを浮かべたまま。
その見透かすような視線に、シルバーは動揺した。

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