小話

□やさしく舞い散る雪の華
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行くな。
瞬間そう叫びそうになる自分を叱咤する。
それだけは言ってはならない。
言えば君を困らせるだけだから。

「そうか……気を付けて行け」
「…はい…」

苦しくて辛くて。
どうしても冷たく言い放つ事しかできない。だけど。

「それでは…行って来ます」

趙雲の声は穏やかで。
思わず顔を上げるとそこには
悲しそうな笑顔があった。
泣きそうになるのを耐えるかのような…痛々しい笑顔だった。

「……趙雲!」

とっさに私は彼の腕を掴んだ。

「…周瑜殿?」
「行くな」

言ってしまってすぐ後悔して俯いた。
きっと趙雲は困った顔をしているだろう。
惨めになり胸が締め付けられそうだった。

「……すまない、馬鹿なことを言って」

それでも趙雲の腕を放す事はしなかった。
いや、できなかった。
あのような顔を見せられては…

「…………」

しばらくの間沈黙が続いた。
が不意にそれが破られる事となる。
ふっと頬に暖かいものを感じた。
それが趙雲の掌だと気付くのには僅かな時間を要した。

「趙雲」
「私もできるなら貴方の側に居たい…。離れてしまうのが辛い…」
「……」

それは狂おしいほどに優しく切ない言葉で。
そしてそこには確かに。
愛しい笑顔と
いつも私が求めていた温もりがあった。
何故君はこんなにも優しい……
不意に込み上げてきた涙を隠すため私は趙雲の胸に頬を寄せた。

「…無茶はしないでくれ」
「はい」
「無事に終わったら…私のもとに……戻って来い」 
「はい、必ず」

これ以上は言葉にできず。
より一層趙雲に擦り寄った。
今少しの間はこの温もりを感じていたかった。

今日限りの温もりを…


やさしく舞い散る雪の華

BGM:粉雪
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