短編

□むげつ/有月
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空いた空いた。

東京を出て乗り継ぎの大きな駅を過ぎ、大きなベッドタウンをふたつみっつ過ぎるとこの快速電車は各駅停車になって、ようやく私も座れるくらいに余裕ができる。
本当はもっと早く席は空くのだけれど、疲れたオヤジ達の座席争奪戦に、仕事帰りの力ない私は視線で棄権オーラを送ることしかできない。
スーツの女に、サラリーマンは冷たいと思う。

今日もまあ座れたのでよしとして、空き始めたころから手にしていた新聞を大きく広げた。
一見出し見てはため息をつき、一記事読んでは車窓の外に目をやるような状況だから、余計に読むのに時間がかかる。
どこかのお金持ちのマネーゲームの行く末より、事あるごとに「最近の若い子は」攻撃をしかけてくるうちのお局様とか、残業とカロリーメイト三昧でファンデーションが粉吹いちゃいそうな私の肌の方がよっぽど切実な問題だ。
でも必要だし恥かきたくないわけで頑張って読んでるんだから、これが朝刊だからってそんな目で見ないでよじーさん。
そういうワンカップの酒って美味しいの?
てかここ電車だよ?
酒臭いってば。
気持ち悪いよああもう。
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