□拍手お礼1
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「あれー、筑紫さんどうしたんですか?」
小雨降る中、小走りで事務所へと辿り着いた弥子は、ビルの前に佇んでいた珍しい人物に驚いて声を上げた。
「桂木探偵、お待ちしていました」
柔らかな口調で呟き、彼は手にしていた傘を弥子の方に差し掛ける。
「あ、ありがとうございます…」
もう随分と濡れていたから、今更傘を差したところで同じなのだが、少女は素直にそれを受け取った。
「じゃなくて、どうしたんですか?笛吹さんも一緒なんですか?」
まさかと思いつつも問い掛ければ、彼は首を振る。
「いえ、自分ひとりです」
「まさか、依頼…なワケないですよね」
「ええ、違います」
穏やかな話し方は、彼女の知る限り周りでは彼だけで、何故だか話していると落ち着く。
普段の行動もあまり奇をてらった物は無いから、逆に今此処に居ることが不思議で仕方ない。
「あ。こんなトコじゃなんですし、事務所、寄って行きますか?雨も降ってるし…」
「いえ、桂木探偵、あなたに会いに来たんです」
「…へ?」
たっぷり30秒は待って、間抜けな一言を吐き出した弥子に一歩歩み寄ると、筑紫はやはり穏やかに言の葉を紡いだ。

「桂木探偵、自分とお付き合いしていただけませんか」

ぽかんと口を開いたままの弥子に、彼は微笑さえ浮かべて追い討ちのように続けた。
「結婚を前提に」
「……か、カンガエサセテクダサイ…」
思考回路がショートして、自分でも何を口走っているのか解らないまま、弥子はギクシャクした動きで事務所に向けて歩き出した。

そんな制服姿の少女を見送り、彼は踵を翻す。
その後姿は常と変わらず、堂々とした物だった。

一方、弥子は。

(ななななな、なんて言ってた筑紫さん、結婚を前提にお付き合いとか、ちょっと待って私まだ高校生でお嫁さんとかいきなり言われてもでもっ)

階段2段目でしゃがみ込んで、頭から煙を上げていた。


ボロ雑巾のようになって事務所へ入ってきた弥子に向けて、魔人が盛大に罵詈雑言かますのは、また別の話である。


***筑紫さんて真面目に結婚を前提にお付き合いとか言いそうな気がするんです。(私だけ?)
20070914

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