□神様もう少しだけ
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神様だとか運命だとか言うものがあるとしたら、不公平を作る神様だと思う。
今このときだって、食べ飽いたパンがたくさん捨てられてるって言うのに、ひもじくて泣く子達の手には渡らない。
神様ってイジワルだ。
そうつぶやいて、私は膝を抱え込んだ。


「……って言うかさ……、弥子ちゃん。何で入院しているのかわかってる?」
お昼過ぎの病院、ひもじさにくすんくすんと泣きながら手渡したお買い物メモを見て、笹塚さんは深い深いため息をついた。
「……胃の検査入院です……」
「……あー、うん。じゃあわかるよね。幾ら弥子ちゃんのお願いでもこれは買えない」
すげなく突き返されたメモの中身はこうだ。


★お買い物リスト★
菓子パン(あるだけ全種類)
おにぎり(あるだけ全種類)
カロリーメイト
う゛お゛ぉ〜い お茶
肉まん
あんまん
コアラの輪舞
パッチンプリン
ヨーグルト
コーンスープ
雑誌「KUISHINBO TEEN」
……(以上、一部抜粋)


……。…うん。買えないよね……。
わかってる。わかってるけど、比較的軽傷の事故で入院している人達と同じ大きな病室、慣れない松葉杖をつきながらでも売店にパンやお菓子を買いに行ける同室の入院患者の横暴に私は我慢の限界なのだ。
「弥子ちゃん、それは横暴って言わない。許可されてるんだからさ。それに他の人達は売店のありとあらゆる食物を制覇しようなんてしないよ」……はい。
でもあれはダメです。目の暴力なんです。
胃が悪いのに大食いなんてダメだってわかってるけど、やめられるものなら我慢してるけど。
ううう……どうしてよりにもよって私が!? 命よりも大事な胃が!
胃の神様がいるならとてもイジワルだと思う。
「笹塚さんだって、入院して煙草を取り上げられたら暴れるでしょう?」
ぐっと拳を握り締めて主張すると、既に私に長く付き添ってニコチン切れらしい微妙にテンションの低い笹塚さんは、さらに渋い顔をして黙り込んだ。
「……いや、でもそこを自粛するのが大人だから」
苦しいが一応は大人の対応だった(でも言い分は結構子供っぽいと思う)。
「私は無理です。どうせ子供ですから」
拗ねて言い返すと、笹塚さんはちょっと顔を緩めた。
ちょ、ちょっと笹塚さんの馬鹿ーっ。なんでそこで! なんでこの必死な場面で、「ほほえましい」なんて顔に書くかなー。
そんなこと言ったら私、我慢の限界なんですから!
「おなかぺこぺこになったら笹塚さんだって食べちゃうんですから!」
叫んだ私の声に、談笑していた部屋の人々が固まるのが一瞬。それ以上に目を見開いて動きを止めた後、口を手で押さえて笑い出したのは笹塚さん。
「……うん。じゃあ入院中我慢できたらご褒美……かな。むしろ俺が飢えそうだから、そろそろ仕事に戻ろうか」
そう言ってそそくさと帰っていく笹塚さんの背中に、私は心の中で「ばかーーー!!」と叫んだ。
笹塚さんもはらぺこだったのに平気なふりして余裕ぶって。そんで私を置いて戻って一人で美味しいランチを食べちゃうんだ。狡い。
笹塚さんのランチを想像しただけで胃がしくしく痛み始める。
ひもじい気持ちは「寒い」に似てる。「心細い」にも似てる。
私は布団の中に潜り込んでため息をついた。
胃の神様はイジワルだけど、笹塚さんはもっとイジワルみたいだ。


***
入院した際に『見舞いは6927か3385で良いよ』とか言ったら、ナチュラルに笹弥子をくれました。
もうこの人最高だと思いました。
入院ネタなのは、私が入院してたからか…(笑)
イジワルだっていいじゃない!!

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