文【ささやこ】

□みぎとひだり
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あれ?
どっちだっけ。

不意に浮かんだ疑問に、思わず両手を見つめる。
「何してんの、弥子ちゃん」
不思議そうな表情で、笹塚さんは私を見ていた。
「いや、手を繋ぐ時って私が右手だったら笹塚さんはどっちかな、って思って」
「それって、今必要な事なのか?」
尋ねられて首を傾げた。
「いえ、特に今絶対必要!ってワケじゃないです」
でも、気にし始めたらやたらと気になる。
「弥子ちゃん」
諦めずにしつこく手を見てたら、笹塚さんが呆れたように嘆息した。
「右手貸して」
「? はい」
言われるままに差し出したら、笹塚さんの左手にきゅと包まれた。
「手を繋ぐってこういう事?」
抑揚なく告げられた言葉にこっくりと頷く。
「ちなみに、弥子ちゃんが右手で俺も右手だった場合」
言いながら、ひんやり気持ち良い手が離れて、今度は右手に代わった。
そして、ちょっと苦笑いしながら『間抜けだよな』なんて呟いている。
「そっか、同じ手だと握手ですもんね!」

よくよく考えれば至極当たり前なんだけれど。
何故かそれが妙に嬉しくて、私は笑ってしまう。
そしたら、笹塚さんの空いてた手が、私の頭をふわりと撫でて。

「本当、可愛いよな、弥子ちゃん」

なんて、やけにしみじみ囁くから照れてしまった。
顔を赤くしてる私を見て、何を思ったのか。
笹塚さんはそうそう、と小さく洩らしながら手を離すと、何故か私の後ろに回った。
背中が温かい。
「さ、笹塚さん?!」
慌てて振り仰ぐと、口元に笑みを湛えたまま、笹塚さんは両手を私の手に重ねた。

「後ろからだと、同じ方の手を繋いでても、新鮮に感じるだろ」

新鮮というか、むしろ恥ずかしい事この上ないんですが!
やたら得意げに言われてしまったので、私は恥ずかしさなんて忘れて、そうですね、って答えた。


「でも、これ外でやってたらただのバカですよね」


勿論、突っ込む事も忘れなかったけど。


***イイワケ
最初、叶絵ちゃんあたりでやってて、物凄い弥子ちゃんいじられてたので方向転換しました。
私が書くと叶絵ちゃん、とことん容赦ない…です(笑)

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