文【ささやこ】

□家族がふえました
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結婚式と入籍と、普通はどっちが先に来るんだろう。
周りで結婚したコとかは、大体式の後に入籍とか言ってたような気がする。
でも私たちの場合は…。

「笹塚さん、ちょっと手伝ってください〜!」
部屋の中の物を片付けながら叫んだら、リビングでダンボールを開けてた彼がひょいと姿を現した。
「ん、どれ?」
「これ!この箪笥!ちょっと場所を変えたいんです」
私の身長ぐらいある箪笥をバシバシ叩いてたら、彼はいつもの様子で頷いた。
「良いけど…弥子ちゃん」
これをあっちに動かして、じゃあベッドは…とか呟いてたら、不意に名前を呼ばれる。
「なんですか?笹塚さん」
「ソレ」
「どれです?」
何の事か解らなくて周囲を見回したら、盛大な溜息。
「もー、笹塚さん、なんなんですか一体!」
「だから、ソレ。今日から弥子ちゃんも『笹塚』」
言われてハッと瞳を見開く。

そうだった。

今日、朝から役所に行って来たんだった…。
「そそそ、そんな事言われても急には変えられませんよ!」
「だよね。付き合ってる間も殆ど名前で呼ばれた記憶無いもんな。俺はずっと名前で呼んでるのに」
ふいと視線を逸らした彼の横顔を見て、脱力しそうになる。
そんな、微妙に解りやすい拗ね方しなくても良いのに。
「……だって、恥ずかしいじゃないですか」
今更名前で呼べとか。
物凄い羞恥プレイだと思う。
「もっと恥ずかしい事いっぱいしたと思うんだけど」
「ぎゃー!!」
そんな事をさらりと口に出す時点で、この人の思考回路って何処か凡人とは違うんだと思う。
「ぎゃーって…まあ良いや。で、これ何処に動かすって?」
「うう…あっちです」
了解、と呟いて彼は箪笥に手を伸ばす。
中身は全部出してあるから、軽いといえば軽いんだけど。
「どうする?俺一人でも動かせそうだけど…床に傷付くかな…」
「あ、私も手伝いますから!」
当然だ。
流石に手伝って、って呼んでおいて傍観決め込んだりはしない。
全力で箪笥を動かして、全力でベッドを動かして、取り敢えず家具の位置を決めた私たちはリビングへと戻った。

未だ、置いてあるのはソファとテレビだけで、後は散乱するダンボールの山。
眺めてたらなんだか切なくなってきたので、とりあえずソファに腰を下ろした。
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