文【ささやこ】

□夜店でえと
1ページ/1ページ

わたあめ、からあげ、ベビーカステラ、お好み焼き、焼きソバ、フランクフルト、フライドポテト、りんご飴、カキ氷。
夜店は魅惑ワールド。

「弥子ちゃん、まだ食うの?」
無表情のまま問い掛けられて、はいっ、と勢い良く返事して振り返った私を見下ろして、笹塚さんは小さく吐息した。
もしかして呆れられてるとか?
いやいやそれは今更だし。
「笹塚さんは食べないんですか?」
手に持っていた28個目のカキ氷を差し出せば、いらない、と首を振る。
「良いよ、弥子ちゃん食いな」
それは嬉しいんだけど、よく考えなくてもさっきから私の胃に入ってゆく食べ物全部笹塚さんの奢りだし。
ちょっとは分けないとダメかな、と思ったんだけど。
「そうですか?じゃあ遠慮なく…」
まあ、遠慮なんてした事ない気もするけど。
最近のカキ氷はミツがいっぱいあって嬉しいよね、しかもかけ放題。
カルピス最高!
ストローのスプーンでざかざか氷を崩して一気に流し込む。
はー、すっとする。
やっぱり夏のカキ氷って最高だよね。
「弥子ちゃん、あんまり冷たいモンばっかだと腹壊さないか?」
「え?大丈夫ですよ。生まれてこの方食べすぎでお腹壊した事ないですから」
これはかなり自慢だけど、お母さんに言わせると「たまには胃腸壊して家計に貢献しろ」ってとこらしいから、実際ちょっと自重しなきゃいけないのかも。
こないだも笛吹さんに26万も使わせたところだしなぁ…あ、でもアレは頭使ってたし、脳を働かせるのには糖分が欠かせないし仕方ないよね。
「…なら、良いんだけど」
ぽふ、と頭を撫でられて思わず硬直する。

付き合い始めて知ったけれど、淡白に見えて笹塚さんって結構スキンシップが好きみたいだ。
流石に公共の場とか人の居る所では控えめだけど、ふたりの時は気付くとよく膝の上に座らせられ…って、何思い出してんの私!
アワアワしてたら、笹塚さんが視線を空に向けた。
「花火始まったな…どうする、弥子ちゃん。移動する?」
「へ?」
「いや、だから花火。花火見たくて出てきたんじゃないの?」
今日は花火大会で、だから人は腐るほど居て、でも、私のメインはあくまで夜店。
夜店イズ魅惑ワールド。
「なんだ、食い物メインか…そうだよな、俺もちょっと可笑しいとは思ってたんだ」
そりゃそうだよな、とボヤくみたいに呟いたから、笹塚さんこそ花火見たいのかと思って「行きましょうか!」って答えたら。

「いや、別に俺も花火見たいわけじゃないし。どうする?まだなんか食う?」
「…イエ、今日はもう大丈夫です、けど…」
「そ。んじゃ帰ろうか」
きゃあきゃあはしゃいで、花火目指して走っていく浴衣の女の子たち。
そんな道を見事に逆流し始めた笹塚さんの背中を追いかける。
「あ、ちょっと待ってください、笹塚さ…!」
言い終わる前に、手が。
伸びてきて。

私の手を掴んだ。

それだけでなんだかもう、頭の中が真っ白だ。
そんなの今更なのに。

「こんだけ人が居ても、誰も気にしないから大丈夫だよ」
やわらかなトーンで告げられて、顔を上げると、笹塚さんは珍しく笑顔だった。
きっと解るのは私だけ。
それがちょっと誇らしい。

制服と、よれよれスーツ。

普段なら笹塚さんが職質受けそうな組み合わせだけど。
でも今日は誰も気にしてない。

ひとつ息を吸い込んで。
指先に力を入れる。
「帰ったらたこわさですね!」
笑顔全開で、隣に並ぶ。
瞬間、目を輝かせた笹塚さんは、しかしすぐに真面目な顔になった。


「よく意味解んないけど…弥子ちゃんは飲んじゃ駄目だよ」

***イイワケ
夜店というか出店?
ざっと浮かんだ食べ物こんだけだったんですが、他になにがありましたっけ…(笑)

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ