文【ささやこ】

□SWEET
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笹塚さん、と。
舌の上でその名前を転がしてみる。

何だか甘い。

言葉に味なんて無いから、きっとこれは錯覚なんだろう。
だって、他の人の名前を呼んでも味なんてしない。
というより、味はするのにお腹は膨らまないなんて拷問には興味ない。

「…笹塚さん」

ぽつり、ともう一度その名前を呟いてみる。

そしたら。
「なに、弥子ちゃん」
「…ぅわっ!笹塚さん?!」
耳に届いた声に驚いて振り返ったら、笹塚さんが立っていた。
いつもの飄々とした様子プラス、少々呆れ気味。
「『うわ』はこっちの台詞。なにやってんのこんなとこで」
「なにって…家に帰ろうとしてました」
首を傾げたら、笹塚さんはふうん、と洩らしてからゆっくり言った。
「弥子ちゃんちはこの辺りじゃないし、学校も事務所も反対方向だよな」
「え?」
思わぬ言葉に周囲を見回す。
まったく見覚えがないワケではないけれど、普段はあまり通らない場所だ。
チラッと視界に映った地名も、家からの徒歩圏内を大きく外してる。
「晩飯の事でも考えてた?」
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