文【ささやこ2】

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彼と繋がっているもの。
携帯。
メール。
事件。
仕事。

電話はいつも、笹塚さんから。
捜査の進行状況とか、私には測れないから。
時間が空けば、それがまだ電話をしても"問題ない"と、彼が判断できる時間帯ならたったの5分でも。
声が聴きたいんです、と我侭を言った私の為に、かけてくれる。

メールはいつも、私から。
携帯をちまちまいじるのが性に合わないのか、滅多な事ではメールをくれない彼には。
私の"伝えられる範囲"の日常をメールする。
返って来るのは『良かったね』とか『また連絡する』とか、簡潔な一言。
忙しいの解ってるから、たったそれだけの事が嬉しい。

事件は…お互いが、不測の事態。
私はネウロと現場に居て、笹塚さんは通報を受けてそこへやって来て。
気まずいとか思う間もなく押し流される。
そうして、私はネウロの命令で。
笹塚さんは笛吹さんからの命令で、与えられた仕事をこなす。
本当は情報交換って、しちゃいけないんだろうな、なんて思いつつ、お互いの手の内を見せ合って、解決して。

それから、やっとデート。

「お疲れ様」
背後から届いた声に振り返れば、笹塚さんが立っていた。
「あ、笹塚さん、お疲れ様でした」
「いや…別に俺なんもしてないし…。むしろ弥子ちゃんだろ。働いてたの」
言われて曖昧に笑う。
だって、実際は働いてたのネウロだし。
でもまあ、あれは食べる為に当然の仕事というか。
視線を彷徨わせてたら、笹塚さんの手が頭に乗った。
優しく撫ぜられて、ほっと吐息する。
「どうする?まだ時間あるけど…どっか行く?」
いつも私の予定を最優先してくれるのは凄く嬉しいけど、でも本当は私よりも笹塚さんの方が外しちゃいけない事、多いはずで。
「笹塚さんはこの後お仕事無いんですか?」
訊き返すと、笹塚さんはやわらかな表情で、ないよ、と答えてくれる。
「んと、じゃあ…少しだけ。今日宿題たくさん出ちゃって…」
英語と古典と数学と3教科分で大変なんです、と唇を尖らせたら、笹塚さんは笑った。
「そりゃ大変だな。…手伝おうか?」
思いもかけない救いの手に思わず頷きかけて、思い止まった。
だって、テスト勉強教えてもらうのなら良いけど、宿題教えてってなったら、なんだか凄くストレートに答えを訊いてしまいそうな気がする。
「…っ、すごく勿体無いけど良いです!!宿題は自力で頑張ります!!」
両手で握り拳を作って、天を仰いだら、小さく声に出してまで笑われて。
「なんですか…その笑いは…」
「いや…うん、頑張れ。応援だけはしてるよ」
「はい!!頑張ります!!」
私って単純だ。
がんばれ、って4文字だけで、本当に頑張れる気がする。
「で、どこ行きたい?」
問い掛けられて、一瞬考える。
あんまり長くは一緒に居られないから、移動時間は短い方が良い。
けど、近すぎるのも他の警察の人とかと会っちゃうかもしれないし。
うんうん唸ってたら「取り敢えず歩く?」と訊かれてしまって、反射的に頷いた。

結局、どこへ行きたいとか全く思い浮かばなくて。
ふたりでまったりのんびりお散歩!なんていう、あっさりデートに落ち着いた。

「笹塚さん」
冷えた彼の指先を暖めるように手を繋いで。
冷たい風が頬を掠めて流れていくのを感じながら、隣を歩く笹塚さんに声をかけた。
「なに?」
斜めに視線が降って来て、きちんと聴こえてるというように、指先に力が篭められる。

「時々、不安になる事ってありませんか?」

普通、尋ねる相手が間違ってると思う。
でも、笹塚さんならそれでも答えてくれるような気がして、じっと彼を見上げた。
ぴたりと足が止まって、繋いでた指先が解かれて。
「そんな泣きそうな顔しなくても…弥子ちゃん、案外泣き虫だよな」
苦笑混じりに呟いた笹塚さんの手は、私の予想を裏切って、私を抱き締めてくれるみたいに背中に回った。
背中というか、腰あたりだけど。
笹塚さんの腕の中。
まるで、閉じ込められてるみたいで。
まるで、世界にふたりだけみたいで。
なんだか無性に安心してしまう。
無言のままで見上げてたら、笹塚さんはゆっくりと唇を開いた。
「何が不安?」
あんまりにも直球ど真ん中だったので、吃驚を通り越して笑ってしまった。
けれど、そんな私の言葉を待つみたいに、笹塚さんは静かに私を見下ろしていて。
「あんまり、逢えないから」
ぽつりと洩らした言葉に、笹塚さんは軽く眉を顰めた。
「ああ…俺が弥子ちゃんに合わせられたら一番良いんだけどな…」
不機嫌になったように見えたのは、単純に自分に対する怒りのようで。
他の人が見たら、そんなの絶対解らないんだろう、なんて思ったらほんの少し胸が温かくなった。
「そうじゃなくて。笹塚さんが合わせるとか、私が合わせるとか、そんなの良くって。別に、いつもデートじゃなくてもいいし、顔だけでも見られたら良いなとか、なんだか結構私我侭で…」

電話してくれる。
メールの返事もちゃんとくれる。
仕事の後でのデートだって、それはそれは完璧で。
ただ、私が不安なのはきっと、もっと単純な事。

「多分私、どんどん笹塚さんの事好きになってて、毎日毎日昨日よりももっと好きで。私ばっかり笹塚さんの事好きで呆れられたらどうしようって思って」
結局堂々巡りのいたちごっこ。
居た堪れなくなって俯いてたら、こめかみに柔らかな感触が訪れた。
見上げれば、唇が離れたところで。
「笹塚さん…?」
「あー、本当に俺何やってるんだろうな…」
一度空を仰いで、それからかっちり視線を合わせてくれる。
「…弥子ちゃん、ちょっと俺、今自分を制御出来なくなりそうなんだけど」
「…ふぇ?」
ああなんだか間抜けな声が出てしまった、なんて、思った次の瞬間には口を塞がれていた。
ふんわりと、合図するみたいに一瞬だけ重なった唇にドキッとして。
そしたら、間を置かずにそのままもう一度。
「え、ちょ…さ、さ……ッ」
気付けば笹塚さんの指が髪の間に入り込んでて。
逃げようなんて思うはずも無いのに、でも逃げ出したくなりそうなぐらい、膝ががくがく震えてて。
噛み付くみたいに、性急に追い詰められて。
無意識に彼の胸元を掴んでた指から、するりと力が抜けた。
それに気付いたのか、長いキスからようやく解放してくれた笹塚さんは、崩れ落ちそうになる私を強く抱き締めてくれた。
「っは…ぁ…」
暫く声も出せないくらい酸欠で。
ようやく充分な酸素を肺に入れたと思ったら、今度は恥ずかしくて声が出なかった。
「弥子ちゃん?」
囁くように呼ばれた名前が、耳と身体から伝わって。
ゆっくり顔を上げると、笹塚さんがこちらをじっと見ていた。
「ちょっと…吃驚、しました…」
精一杯努力して笑顔を浮かべると、笹塚さんも安堵したように表情を緩める。
「うん、悪い…ちょっと、調子に乗りすぎた」
そう呟いた後で、浮かれて、と続いたので首を傾げたら笹塚さんは神妙な顔で更に続けた。

「普通、惚れた相手にそんなに好き好き言われたら、我慢利かなくなっても当然だと思うんだけど…どう思う?」
「き、訊かれても…」
解らないです、と小さく呟いたら、笹塚さんは「そーだな」と妙にあっさり答えてくれた。
大体、私だったら笹塚さんに好きって言われたらそれだけで嬉しくて幸せでもう全部どうでもいいや!って感じになると思うんだけど。
これって、男女の違い?
それとも、大人と子供の違い?
せめて、前者だったら良いのにな。
後者だったらちょっと切な過ぎる。

「好きだよ」

すとんと落ちてきた言葉に、顔を上げる。
「弥子ちゃん、好きだよ。だから別に、どんどん好きになってもらって構わないけど。…その方が俺は嬉しいし」
「本当ですか?」
「うん」
「本当の本当に?」
「本当の本当に」
「絶対?」
「絶対。…まったく、こんな可愛い恋人持つと幸せだな」
散々念押ししまくった私の頭を撫でてくれながら、笹塚さんは瞳を細めた。
それを見て、物凄く嬉しくなってしまった私は、全開の笑顔で笹塚さんを見上げた。
「私も、幸せです」
―と、不意に笹塚さんの表情が固まった。
なんだろ、どうしたんだろう?
今の流れで固まる理由が全然解らなくて、首を傾げたら。
困ったように溜息を吐き出した笹塚さんが、悪い、と小さく呟いた。


「弥子ちゃん。宿題全部俺がやるから…取り敢えず、今夜は一緒に居よう」


「………はい?」
今度は私が固まる番で。
引き攣ってる私に気付いてるのか気付いてないのか、笹塚さんはそんな宣言と同時にタクシーを捕まえると、普段のやる気の無さそうな姿からは想像も出来ない瞬発力と機敏さで行き先を告げた。
到着地点は笹塚さんち、というか。
…笹塚さんちの寝室というか。
思い出すたびに地面に穴を掘って埋まりたい衝動に駆られる、その夜の事は、でも多分一生忘れられないと思う。
まあ幸せだから良いんですけど!


***イイワケ
幸せなら良いと思います!!(丸投げした!!)
なんだかなぁ…当初の予定からそこまで大幅にずれた感じは無いけど…時間空けると駄目ですね。
次回からはちゃちゃっと仕上げたいです。

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