文【ささやこ3】

□きみを抱き締める覚悟ならある
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 街ゆく女子高生を横目でちらりと眺めながら、黄色いテープの内側を歩く。
 イマドキの女子高生は背が高くて足が長い。
 メイクも上手で完全武装しているから、一見しただけじゃまるで年齢がわからない。
 そんな彼女たちを女子高生たらしめているのは『制服』の存在だ。
 ただ、大人びたカオとカラダを包む制服というのは、彼女たちにどこか不似合だ。

「笹塚さん?」

 女子高生の群れからひょこりと顔を覗かせたのは、噂の女子高生探偵。
 柔らかそうな髪がふわりと揺れて、いつもの朗らかな笑顔つきだ。
「弥子ちゃん。今帰り?」
「……テスト期間なんです」
 軽い気持ちで問いかけた言葉に、妙に重苦しい返事があって、内心では笑ってしまう。
 まあ、表情には一切出ないのだが。
「そーか。探偵業もいーけど、学生の本業も頑張りなよ」
 穏やかな声が出た、と自分でも思う。
 彼女も少し不思議そうに瞬いて、大きな瞳でこちらを見ていた。
 いつもまっすぐ見つめてくる、裏表などまるでない透き通った瞳。
 テンションがおかしい時もあるけれど、基本的に礼儀正しく謙虚な少女。
 見つめられているから同じように見返していると、不意に彼女の視線が逸らされた。
 ――何かあっただろうか?
 視線を外し、俯きがちに「頑張ります」と答えた彼女の、睫が案外長いことに気づく。
 お仕事中に声かけてすいませんでした、それじゃあ。と、慌てた様子で手を振る彼女の頬が、微かに紅い。

 彼女と俺の間にある、黄色いテープが風にぴらりと揺れた。
 まるで彼女に対して立ち入り禁止とでも言うように。

 実際はこちら側が立ち入り禁止区域のはずなんだが、と詮無いことを考えて、踵を翻す。
 しゃがみ込んでいる鑑識の連中を一瞥した後、短く息を吐き出した。
「……あ」
 不意に甦ったのは、全身で緊張を訴える少女の姿。
 そうだ、この間。

 好きです、とたった一言告げられて、返事も聞かずに彼女は脱兎のごとく走り去った。

 それから初めて会ったにも関わらず、あの時の返事を求めることも話を蒸し返すこともせず。
 最後だけ動揺を現した彼女は、しかし普段通りを演じてみせようとしていた。
 それがなんとなく面白くない。
 自分の返事を想像して、勝手に落ち込んで、なかったことにしているみたいだ。

 あー、と低く呻いて頭を掻く。
 いつも通りに見えたから、完全に忘れていた。
 それも失礼な話だとは解っているのだが、いつもの彼女に会って『安心した』のだから仕方ない。
 悪態を吐きそうになって、ふと我に返った。
 彼女は、こんな風に自分が振り回されていることなんて、気づきもしないのだろう。
 そして、それが案外心地良いと思っていることにも気づいていない。
 自分だって、ついさっき気づいたところだが。

 さて。
 次に会った時には逃げずに答えを聞いてくれるだろうか。

きみを
抱き締める
覚悟ならある


 ――弥子ちゃん、俺はきみのことが


お題:LUCY28

***イイワケ
大体いっつも覚悟するのは笹塚さんかなあ。
私の中で。
まあいろいろある人だもんね。


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