文【ささやこ】

□拍手お礼
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だって、好きになっちゃったんだもん、仕方ないよ。
それはたぶん、私にとってご飯を食べるのと同じくらい自然で。
それでいて、それがないと生きていけないくらい重要な事で。
相手が相手なだけに慎重に、そして迅速に。

「笹塚さん、好きです!!」

玉砕覚悟で突っ込んだ――…わけで。


「…あー…、俺も弥子ちゃん好きだけど」
「…明らかに意味履き違えてません?」
「…やっぱり?」
頭を掻きながら、何かを考えるみたいに数十秒黙った笹塚さんは、ぐるりと周囲を見回して。
周りに同僚が居ない事を確認すると、小さく溜息を吐き出して私を見下ろした。
「弥子ちゃんの好きってさ」
「ひとりの男の人として笹塚さんが好きなんです!!」
「あー…うん、良いから、ちょっと聞いて」
両手を握って力説したら、いつも通りのテンションで軽くかわされた。
ぐっと言葉に詰まる私を眺めたまま、笹塚さんは淡々と続ける。
「て事は、俺と付き合いたいとか、そういう意味で取って良いわけだ」
その言葉にこくこくと頷くと、笹塚さんはまた小さく溜息。
…さっきからそれが凄く気になるんですけど。
「あのさ、弥子ちゃん。付き合うっていうと、色々あるんだけど…理解してる?」
「…? 何をですか?」
首を傾げたら、笹塚さんは妙に改まった口調で、懇切丁寧に説明してくれた。

「俺だっていい歳した男だから、付き合うっていったら手を繋いでデート、とかじゃ足りないわけ」
「はぁ」
間抜けな返事したら、笹塚さんはちょっと視線を逸らしてから、またこちらを向いた。
その視線がやけに真剣だったので、思わず背筋を伸ばしてしまう。

「キスとか、セックスとか、込みじゃなきゃ付き合えないよ?」

「……!!!!!!」
いきなり飛び出た単語に、思わず顔を真っ赤にして後ずさってしまった。
いや、確かにそうかもしれないんだけど。
でも、告白していきなりそんな返事って…?!
笹塚さんを見上げて口をぱくぱくさせてたら、笹塚さんはちょっと困ったように笑った。
「うん、まー無理なら俺も諦めるけど」
「え、ちょ…待ってください無理っていうか…そうじゃなくって…えと……ん?」

ちょっと待って。
今、笹塚さんなんて言った?

「あの、笹塚さん…今、なんて…」
「キスとか…」
「じゃなくて、その後!!」
「セックスとか」
「だから、もっと後です…ッ!!」
食いつくみたいに身を乗り出して問い掛けたら、笹塚さんは笑っていた。
「弥子ちゃん、本当…聞いてないようで聞いてるよな…」
「だ、だって、今…」
諦めるって言った。
諦めるって事は。

「笹塚さんも、私の事…好きなんですか?」
「あー…まぁ、一応」
「一応ってなんですか!!」
「…だって、俺弥子ちゃんみたいに純粋じゃねーから、下心込みだし」
あっさりそんな事を言ってのける笹塚さんは、ホントにいつもとテンションが変わらない。
「いいい、今すぐとかは無理ですけどッ…えと、その…っ」
また急激に熱くなる顔を両手で覆いながら、それでも笹塚さんを見上げれば、彼は穏やかに私の言葉を聞いてくれていた。
「…待ってくれるなら…」
「ん」
小さな返事と一緒に、頭を撫でられた。
「別に俺も今すぐとは言ってないし」
何処か苦笑混じりの声に、恥ずかしくて顔が上げられない。
嬉しいけど恥ずかしすぎる…!!

頭の中がぐちゃぐちゃになって、今後の展開とか全く予想もつかない私の手に、不意に笹塚さんの手が触れた。

「…え?」
「取り敢えず、手、繋いで帰る?送ってくよ」
「っ…はい!!」

良い子のお返事をした私は、取り敢えず今後の事は今後の流れに任せる事にして、今日は笹塚さんと一緒に帰る事に決めた。




次の日、事件現場からさっさと帰った私に、ネウロから口にするのも憚られるような物凄いDVを受ける事になるんだけど…それはまた別の話。
(っていっても絶対話したくないけど!!)


*****4/17にアップできなかったものです(笑)
ちょっと裏技駆使して原文ママ上げてみました。
…裏技って程のもんじゃない。
20080513
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