文【ささやこ】

□He said...
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「弥子ちゃん、何かあった?」
ちらりとこちらを見ながら問い掛けてくる笹塚さんから、視線を外したままで私は「いえ、なにも」と。
かなり気のない返事をする。
普通の相手だったら多分コレでムカッとすると思う。
でも、何故だか笹塚さんは(単純に感情が表に出ないだけかもしれないけど)そんな素振りもない。

だから、時々凄く。
苛々する。

自分が駄目だな、って思うのは私のコドモな処で。
もっとはっきりしてよ、って思うのは、私の厭なオンナの部分。
どっちも自分の事だって解ってるから、相反する感情に、ただイライラを持て余して。

小さく溜息を吐き出したら、不意に体感速度が緩くなって。
視線を上げたら、車が路肩に寄せられたトコロだった。
「え、笹塚さ…」
「弥子ちゃんさ、最近凄く苛々してるよな」
問い掛けではなくて、確認するようなきっぱりとした言葉に、思わず息を呑む。
「俺、何かした?」
「…別に、笹塚さんは何も…してないです」

―…何も、してくれないです、とは流石に面と向かって言えない。

一緒に居るだけで嬉しいのに。
話すだけで楽しいのに。
手を繋ぐだけで、幸せなのに。
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