文【ささやこ】

□惑
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何もかも放り投げて、楽になりたいと思う事がある。
それは、昔感じた事のある焦燥にも似た感傷。

ただ、昔と違うのは、そんな時決まって頭に浮かぶ、女の顔がある事。

桂木弥子。

巷で噂の女子高生探偵。
しかし、本人はそんな噂などとはまったく違う、何処にでも居る普通の、今時の女子高生だ。
初めて出会ったのは、彼女の父親が殺された時だった。
捜査中ずっと顔を合わせて、沢山話をして。
その中に推理の話など全くなかった筈だった。

だから、彼女が犯人を指差した時には心底驚いたものだ。

今思い返してみても、どの事件も、彼女が何か推理らしい推理を口にする事はなかったような気がする。
それなのに、気付けば彼女は見事に犯人を暴き、時にはその心を見抜き、いっそ鮮やかに事件を解決してゆく。

俺が見ている"桂木弥子"は、一体、"誰"で。
世間が見ている"桂木弥子"は、一体、"誰"だ?

そんな、馬鹿馬鹿しい事まで考え出すから始末に負えない。

咥えた煙草を唇から離して紫煙を吐き出せば、からかうように俺に纏わりついた後、風に乗って姿を消した。
短くなったそれをもみ消して、携帯灰皿へ落とす。
緩やかに動かした視線に、光を反射する飛行機雲が映った。


疲れた。
こんな日は、バカには構わずさっさと帰るに限る。
焼酎でも呷って、エアコンの効いた部屋で寝れば、少しは疲れも取れるだろう。


特効薬が何であるか自覚はしていたけれど、そう彼女に告げる覚悟はまだ無い。
だから俺はきっと今夜も、快適な部屋で、悶々と過ごすのだろう。


覚悟を、決める瞬間まで。


***イイワケ
はやく、覚悟決めたら良いと思います。

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