短編集

□ディフェレンス
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あのさ、ブラウン…
―ん、何?
…な、何か言いにくいんだけどさ…
―うん
ブラウンって背ぇ高いだろ…
―そうかなぁ…?
目茶苦茶背でけぇって!
―うーん、じゃあ高いとするよ。
ははっ。けどさ、それって逆に俺の背がちっさく見えない?
―そうだね
っ即答かよっ!



俺の身長はポップンパーティーに出た男子の中で考えると低くはない方だ。
しかしブラウンはその中で多分二番目に高い。
(ちなみに一番高いのはフィーバーロボだ。…多分。)

だから2人で並んで歩くと明らかに俺が小さく見えるのだ。
そう並んで見ると――2人で並んでいる人を見るとカップルに見える、という偏見を敢えてここで持つ、という定義の上だが――俺は女に見えるというわけで。
こんなに髪を伸ばしていても俺は男だ。
以上いろいろと遠回し過ぎたが、女っぽく見えるのは男の恥だと俺は思っている。


「それで?」
「だーかーらー、女っぽく見られたくないの」
「Dは男でしょ?」
「当たり前だろ…」
「…日本人は何でもかんでも遠回し過ぎるよ」

ときにブラウンはこうやって日本人に対しての説教じみたことをやるが、本人曰く「日本人の思考についての俺からの教え」だと言う

「あのね日本人はハッキリと物申さないね。俺としては嫌いではないけど。日本人は人を傷付けるのが嫌いだっていうのは凄くすごーく分かる。関東の人がエレベーターに乗るときに左側に立つのは、武士が右側に持った刀で人を傷付けないようにするためだって説があるくらいだしね。でもそういう傷付けないないようにすることを言葉で表すと凄い曖昧になるの。よく日本人が使う"構わない"って言葉がいい例だね。構わないっていうのはYesにもNoにも取れるでしょ。他の言語は"はい"と"いいえ"をハッキリとさせているけど日本語はそうではないんだ。だから日本語、いや日本人は遠回しだって思われるの。分かった?D」
「………分かりました。」


こうやって長文を息継ぎなしに(実際はあったかもしれない)話される内容だが、その内容には頷いてしまうものが大半だ。
聞いていて役に立つ(だろう)ものが多い。
…確かに"んー"という返事もハッキリしていないと考えてしまった。


「ということで、キッパリと本題をお願いします」
「背が伸びたい」

本当にキッパリと言ってやったぜ!と内心ガッツポーズを決めたかったが、あとで虚しくなるので止めにした。

俺の一言を聞いたブラウンは頭を掻きながら(正確には帽子をだが)んーだとかあーだとか声を出しながら悩み始めた。
そこまで悩ませる気はなかったんだけどな…。

今更ながら思う、ブラウンは表情が凄い豊かだと。
顔の大半が目深に被った帽子で隠れているというのに、顔を見ただけで怒ってるな、楽しいんだなと分かる。
俺はどうだろう。
ブラウンと同じようにバンダナで目元を隠しているから、そこら辺はブラウンと同じだ。
だかしかし、俺は口許だけだと表情が分かりにくいという。
ブラウンはそれが嫌でいつも俺に、バンダナを外してよ、と言ってくるのだ。

話が少々逸れたが、表情をはっきりと出さないのは日本人故なのか。

けどそうやって、日本人だからと逃げることはいくらでも出来る。
少しぐらいは、前に進んで見るべきだろう。

笑うときも、意識してでもいいから、口角を上げてみようとかそんなんでいいから。


「…D?」
「……え?」

いつの間にかブラウンによって椅子へ座らせられていた。
しかも場所まで変わっている。
ここは…多分、大通りから少し離れた喫茶店だろう。
修達とよく行くライブハウスの近くだった気がする。

「生返事だったから聞いてないだろうとは思ってたんだけど、本当に聞いてなかったんだね、話」
「ごめん」
「いや、いいんだけどね」


Dらしいよと、ブラウンが呟いたところに、ちょうど水色のカッターシャツに青いベスト、紺のネクタイをした海らしい――空なのかもしれない、が俺にはよく分からない――色合いのウェイトレスがやってきた。

「ご注文は御決まりでしょうか」
「うん、オリジナルブレンドコーヒーと、オレンジタルトを一つずつ。Dは?」
「えっと…俺は…カモミールティーと…ペパーレアチーズ」
「かしこまりました」


ウェイトレスが調理室へと言ったあと、ブラウンはニコニコと微笑みながら俺に言った。


「多分、さっき聞いてなかっただろうから言うね」
「あ…うん」
「成長ホルモンと遺伝次第だね」
「は…?」


何が成長ホルモン?と思ったが、かなり前にブラウンに言った「背が伸びたい」の解答なんだと戸惑いながらも納得した。

「俺は代々背の高い一族だったから高いけど、Dはどうなの?お母さんもお父さんも了解とも背が高い?」
「あー…低くはなかったはず」
「じゃあ大丈夫だね。多分もっと伸びるよ」


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