バハムートラグーン

□「おれたちの夢見た伝説」
1ページ/2ページ

「グンソー、バルクレイ、武器の在庫を確認しろ!刀剣類から斧、槍、杖に至るまで全てだ!フルンゼとレーヴェは防具類のチェック、ディアナとアナスタシアは日用品の確認だ!ラッシュ、ビッケバッケ、ドラゴンのブラッシング、念入りにやっとけよ!ホーネット、エンジン停止。機関部から甲板まで総点検だ。各部部品の在庫もしっかり見といてくれ。指示されたメンバーは責任を持って任務を完遂しろ!人を使ってもいい、ただし報告は自分でしに来い!」

奪還したばかりのカーナ旗艦を歩き回りながら、ビュウが矢継ぎ早に指示を飛ばす。その姿は騎士というよりも、企業で現場指揮を執る中間管理職に近い。

「マテライト、センダック、タイチョー、艦長室に。これからの打ち合わせをしたい。トゥルース、お前も来い」

ドラゴンの世話をしようとブリッジから出ていくところだったラッシュが足を止め、ビッケバッケが目を剥いた。トゥルース本人も困惑している。何しろマテライト、センダック、タイチョー、ビュウの四人に交じって会議に参加しろという命令である。少なくともトゥルースの耳にはそう聞こえた。

「た、隊長、なぜ私を?」

反乱軍幹部の会議に参加できるのは嬉しい。しかし同時に、ラッシュ、ビッケバッケに対して申し訳がない。自分だけが参加していいのだろうか。いや、そもそも自分のようなヒラの戦竜隊員が参加していいのだろうか。トゥルースは困惑していることを隠さずにビュウを見た。

「お前にはしばらくの間、俺の副官を頼みたい。他に適任者がいないんでな」
「え……良いのですか、私で?」

ビュウの副官となると、名実共にカーナ戦竜隊の副隊長である。トゥルースは嬉しく思ったが、同時に焦りを覚えた。自分はまだそんな器ではない、とトゥルースは思う。しかし、ビュウの思惑はまた別のところにあった。

「戦竜隊の方とはまた別だ。反乱軍の事務方に関して、俺のサポートをしてほしい。副官……というより秘書みたいな形になるが」
「あ、そっちですか……」

がっかりしたような安心したような、肩透かしを食らったような気分のトゥルースは、それでもビュウの申し出を快諾した。ラッシュは安心したようにブリッジから出ていき、ビッケバッケもそれに続く。トゥルースも、再び歩き出したビュウの後ろに付いて艦長室に向かった。





「……今、何時だ?」
「標準時間で20時ですね」

朝方にカーナ旗艦を奪還し、出発に必要な全ての作業を終えたのは、日もすっかり暮れた夜のことだった。いや、正確にはあと二つ、大切な作業が残っている。

「そうか。トゥルース、伝声管の整備は終わってるな?」
「はい、伝声管の整備を含め、全て問題ありません。ブリッジの『あれ』を除けば、ですが」
「わかった。全員をブリッジに集めてくれ」
「了解しました」

トゥルースは伝声管に口元を寄せた。

「ビュウ隊長より総員に通達、直ちにブリッジに集合するように。繰り返す、直ちにブリッジに集合するように」

書き物をしていた机から羊皮紙を丸めて取り上げ、ビュウは立ち上がった。途端に猛烈な疲労感を感じ、手を挙げて伸びをする。

「お疲れ様です」
「それはお互い様だ……さあ、今日の締めをやりに行くぞ」

ビュウとトゥルースがブリッジに上がろうと通路を歩いていると、ちょうどブリッジに向かっていたセンダックに出くわした。

「あ、ビュウ、トゥルース……」
「センダック。今日はお疲れ様」
「お疲れ様です、老師」
「お疲れ様……そうだ、ビュウに相談があるんだけど……」
「俺に?」
「では、私は先にブリッジに行っています」
「わかった」
「あ……」

トゥルースはビュウとセンダックに敬礼すると、早足で立ち去った。

「別に他のクルーに隠さなきゃいけないようなことでもないんだけど……」

トゥルースの去った方向を目で追いながら、センダックが呟く。

「でね、その……」

そのまま、センダックが話し出した。前置きが長くてなかなか本題に入らない、マテライトが言うところの「ウダウダ話」である。幼い頃から王宮に出入りしていたビュウには聞き慣れたセンダック節だが――当時のセンダックのビュウを見る目はもう少しまともであったとビュウは記憶している――マテライトやラッシュなどはどうもセンダックのこの調子が気に入らないらしい。

「……実は……まだなの。……新しい艦の名前……」
「……あ……そういえば……」

ビュウは額に手を当てた。今後の活動予定やら艦内規則やらを考えるのに意識が向きすぎていて、新カーナ旗艦の名前のことをすっかり失念していた。ヤングゴーゴーなやつをお願い、とのたまうセンダックの要望を差し引いても、その場でポンと決められるような問題ではない。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ