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□The World(L)       第三話:再会と離別
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結果から言えば、巨大鼠はものの三十秒程で倒す事が出来た。
戦闘後、ピスタチオのがアランシアの匂いをかぎつけ、そのピスタチオに導かれるままにとある洞窟の前に案内され、今に至る。

森の合間にぽっかりと口を開く洞窟。湿った空気が漂い、どんよりと暗い、「いかにも」といった雰囲気の洞窟である。

「入るわよ」

アイリスを先頭に、ヘイゼル、ピスタチオの三人は洞窟へと踏み入った。

「風が吹いてる……ちゃんと出口はあるって事か」

風というものは、入り口があるだけでは吹かない。入り口と出口があって、初めて「吹き抜ける」ものなのである。

「暗いけど……何も見えない程じゃないわね。ところでピスタチオ、しがみつかないでくれる?動き辛いわ」
「そんなつれない事言わないで欲しいっぴ。オイラ、怖いっぴ……」

ピスタチオふさふさの毛の奥の目は、恐怖に揺れている。アイリッシュは溜め息を吐いた。

「良いわ。怖ければそうしてなさい。出てくる魔物は皆私達で倒して、あなたは全く成長せずにこの旅を終える事が出来るわ」

突き放す様な、しかしそれでいて自立を促すアイリッシュの叱咤。
マジックドール・カラマリィに勝つ。キルシュに勝つ。ヘイゼルに勝つ。その目標を掲げたからには、アイリッシュにしがみついている訳にはいかない。

「わ、分かったっぴ……オイラ、頑張るっぴ!……ぴっ?」
「ん?どうした、ピスタチオ?」

不審そうに問うヘイゼルに、ピスタチオは前方を指差す事で応えた。

「アランシア?」

そこにいたのはマドレーヌクラスのクラスメイト、アランシア。洞窟の中、入り口付近にたった一人で立っている。
アイリッシュがアランシアの姿を認め、近寄ろうとした。しかし、一方のアランシアは地面を滑るように三人から離れていく。

「こっちだよ……おいで……」
「お、おい、アランシア?」

ヘイゼルが呼び止めるも、結局、三人はアランシアの姿を見失ってしまった。

「なんなんだ、アイツ?おいアイリス、ボケッとしてないで追い掛けないと……」
「ボケッとしてるのはあなたよ。私に向かって偉そうな口を利かないで」

一瞬両者の間に火花が散ったが、ヘイゼルはアイリッシュが何故そんな事を言うのかが気になった。アイリッシュは根拠も無く他人の意見を否定するような事はしない。

「どういう事だ?」
「あなたって本当に鈍感なのね」

アイリッシュは一つ溜め息を吐いて、帽子の下から頭一つ分高い位置にあるヘイゼルの顔を見据えた。

「あれはアランシアじゃない。エニグマよ。エニグマが彼女に化けてるわ」





「一人か?まあ良い、上手い事、エニグマの手から逃れてる様だね……くっくっく……」

低く笑うアランシア(?)。

「アランシア?どうしたっぴ?目付きが怪しいっぴ!」

何も知らない風を装うピスタチオ。数分前、アイリッシュはヘイゼルとピスタチオにある作戦を提示していた。





『いい?あのエニグマに私達が正体に気付いていると分かれば、恐らくは逃げられるわ。より有利な状況で戦うためにね』
『じゃあ、どうするっぴ?』
『気付いていない風を装うのか?』
『そうよ。ただし、ピスタチオ一人でね』
『ぴっ?!な、なんでオイラ一人なんだっぴか?!!』
『その方が向こうも油断し易いもの。大丈夫、私達は物陰に隠れて、いざとなったらすぐに飛び出すわ』
『おい、そりゃあいくらなんでも……』
『オイラ一人でエニグマと……ほ、本当にすぐに出て来てくれるっぴか?』
『ええ。正体を顕した所を一気に叩く。こちらが少々不利になるのは止むを得ないわ。ここで逃げられて、一人でいる所を襲われでもしたら困るもの』

一気にまくし立てたアイリッシュの案に、ヘイゼルは渋い顔をした。

『あまり巧い手とは言えないが……他に策も無い。ピスタチオさえ良ければ俺は構わないが……無理する必要なんて無いんだぞ、ピスタチオ?』
『……だ、大丈夫だっぴ。オイラ、今度は逃げないっぴ』
『じゃあ、良いわね?ピスタチオ、怖いと思うけど、覚悟を決めなさい』
『わ、分かったっぴ……オイラ、やるっぴ!』





「光の中ならエニグマからも逃れられるだろうけど、わざわざこんな闇の中に友達を追ってくるなんて、自惚れてるのかな?」

(既に馬脚を顕しつつあるな)

ヘイゼルはそう思ったが、あくまでも攻撃はエニグマが正体を顕してからである。ここは我慢しなければならない。

「エニグマ……?海岸で襲ってきた奴らっぴ?闇がどうしたっぴ?ここは危険だっぴか?」
(それにしても……ピスタチオめ、中々どうして)
(上手いわ、ピスタチオ)
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