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□少年少女
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学校と名の付くからには定番の、生徒たちにも馴染み深い電子音が響く。すると教室内の生徒は次々と着席し、また、教室の外にいた生徒たちも教室に戻り、所定の席に着く。
その日、キスティス・トゥリープはご機嫌斜めだった。「バラムガーデンから一人でも多くのSeeDを生むための強化訓練」という名目でガルバディアガーデンが教官を数名出向させると言い出し、シド・クレイマー校長もそれを拒まなかったのだ。大きなお世話だ、と思ったのはキスティスだけではない。他のバラムガーデンの教師たちの大部分も、ガルバディアガーデンからの教官の出向を快く思っていない。

『生徒たちにはいい刺激になるでしょう?』

なぜガルバディアガーデンからの出向を易々と受け入れたのかと詰め寄った教師たちに、シド・クレイマー校長はそう応えた。それにしたって、とキスティスは思う。その出向してきた教官の一人に付き添って、その授業内容のレポートまで書かされるのは本当に勘弁してほしい。そんな思いを抱えながらも、キスティスは自分の担当のクラスにやってくる教官を迎えに行くのだった。

「ウィル・デューティー……聞き覚えのある名前ね……?」

首を傾げたキスティスが、近づいてくる気配に居住まいを正した。そこへやって来たのは、日本刀をスーツのベルトにぶち込んだ長身の男。

「ウィル・デューティーです。キスティス・トゥーリープ教官、お世話になります。よろしくお願いします」
「こちらこそ。では早速ですが、行きましょう。時間がありませんので歩きながらになりますが、私の担当するクラスについて、いくつか注意点がありますので、確認をお願いします。まずは生徒の名簿リストをご覧頂きたいのですが……サイファー・アルマシーとスコール・レオンハートという生徒には注意してください。
二人とも、その……何というか、違った意味で問題児なので」
「楽しみです」

口元だけで笑顔を作り、ウィルは名簿リストに目を走らせた。そして、サイファー・アルマシーとスコール・レオンハートの名前を脳に刻む。ガルバディアガーデンにおいても才媛との誉れ高いキスティス・トゥーリープをして問題児と言わしめる二人を、自分は御しきることができるのだろうか、とウィルは思った。

「ところで、デューティー教官」
「何でしょう?」
「失礼ですが以前お会いしたことがありましたかしら?……いえ、あなたの名前に覚えがあったもので」
「……そうですね、あなたが最年少SeeDになる前の最年少記録を持っていたのが私で、また、あなたが最年少教官になる前の最年少記録を持っていたのも私です。そういった関連で私の名を知ったのでは?」

ああ、とキスティスは頷く。ガーデンでの学生当時、自身の担当をしていた教官がウィルの名を口にしていたのを思い出したのだ。

「自分の記録がことごとく破られたと知った時は、少し悔しかったですよ。自分より一歳年下の女の子に記録を破られるなんて、とね。
しかし、あなたに直接会って、こうして話してみると、今更ながらあなたの才能、自身の思い上がりを痛感しました。しかもこんなに美人だなんて」
「あら。『一歳年下の女の子』に言う台詞ではないのではなくて?」
「ん。……意外と根に持つタイプですか?」
「記憶力が良いだけよ。……あら、失礼」

自然と敬語を使い忘れて、キスティス自身が驚き、謝罪する。ウィルはというと、こちらも少し驚いたように、しかし人好きのする笑みを浮かべた。

「同じガーデンの教官なんだから気にしないで。むしろ、敬語はナシでいかないか?せっかく美人の知り合いができたのに、他人行儀じゃつまらない」
「口が達者なのねぇ」
「これもSeeDとして当然のことだろ?」

呆れたように笑うキスティスとウィルが、教室の扉の前にたどり着いた。先ほどまでの笑顔は消え、ビシリとした兵士の顔になる。

「行きましょう」
「ええ」

キスティスがドアを開き、ウィルが続く。ややざわめいていた教室は、水を打ったように静まり返った。

「以前にも言いましたが、皆さんは今日からSeeD試験に向けての特別訓練期間に入ります。そこでバラムガーデンは、軍事国家であるガルバディアに籍を置くガルバディアガーデンより特別に教官を招きました。デューティー教官、どうぞ」
「ありがとうございます」

キスティスが教壇を譲り、ウィルが進み出る。

「ウィル・デューティーだ。今日から二週間、君たちをしごき上げるようにと言われている」
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