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□The World(L) 第三話:再会と離別
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ヘイゼルとアイリッシュが心の中でピスタチオに称賛を送る間も、ピスタチオとアランシア(?)の会話は続く。
「何も知らないんだな。まあ、良いだろう。エニグマは闇から生まれた生き物で、凄まじい魔力を持っている。敵に回すと恐ろしい存在だが、味方にすれば無敵の強さを手に入れる事になる……」
無敵の強さを手に入れる。この言葉にピスタチオの注意が削がれた。
「強くなれるっぴ?!どうすれば良いっぴ?!」
(おい、ピスタチオ?)
(まずいわ、会話に引き込まれてるわね)
ヘイゼルとアイリッシュの焦りを知ってか知らずか、アランシア(?)は尚もアランシアらしくない口調で語り続ける。
「簡単さ。体を貸してやるだけ。融合するのさ」
「ユウゴウ……?」
(まずいわ、作戦どころかこのままじゃピスタチオが……)
(駄目だ、作戦は中止だ!出るぞ、アイリス!)
「ああ、そうだ。もう少し側に来なよ……教えてやるよ……」
「ピスタチオ、離れろ!!」
ヘイゼルとアイリッシュが物陰から飛び出した瞬間、今までその場にいなかった者の声と、強力な炎の魔法がピスタチオとアランシア(?)の間に炸裂した。
「?!」
炎に驚いて飛び退くピスタチオと、炎の向こう側、炎と陽炎に照らされ妖しくゆらめくアランシア(?)。
「フッ……邪魔が入ったか……」
「そいつはアランシアじゃない、ニセもんだ。エニグマが化けてるんだ」
言い放ったキルシュ、一瞬遅れてその場に現れたヘイゼルとアイリッシュ、キルシュの後から現れた本物のアランシア、分かっていてもやや混乱しがちなピスタチオ。
「いや〜ん、あたしってあんななの〜?」
「似ても似つかねぇよ。お、ヘイゼルとアイリスもいたんだな!」
「ごめんなさい、キルシュ、アランシア。私の立てた作戦が失敗したの」
三人の会話を背景に、ヘイゼルはアランシアに対して若干申し訳ないという思いを抱いていた。
(すまん、アランシア。俺は最初気付かなかった……)
五人になったマドレーヌクラスの仲間は、それぞれ戦闘体制を整えた。もう遠慮も作戦も要らない。ただ戦うのみである。
「仕方ない……こうなったら、腕ずくで奪ってやるッ!」
姿を顕したエニグマ、ヴァルカネイラはヴァレンシア海岸に現れたピスカプークよりもやや大きい。
「ケッケッケッケ……精々楽しませてくれよ?」
ダミーゴーストを召喚し、ヴァルカネイラは闇の魔法を行使すべく体に魔力を漲らせた。
「楽しむ暇なんてくれてやるかよ!マッハライン!」
ヘイゼルは強化されたスピードでヴァルカネイラを撹乱しつつ、魔法攻撃の効きにくいダミーゴーストに突きや蹴りの連打を浴びせ、あっという間に撃破した。
「ぃい行くぜぇぇ!ホットグリル!!」
ヘイゼルが作った隙を逃さず、まずはキルシュが大きな火球を叩き付けた。
炎によって目の前が塞がれた所を、頭上からどんぐりんこが襲う。
「ぐうっ……?!くそ、小賢しいッ!」
ヴァルカネイラは炎の壁をものともせず、キルシュに向かって突っ込んだ。しかし、炎の壁を抜け切らない内に、不快な不協和音が頭に響く。
「ちィッ……音の使い手か……!意識が……」
魂のレクイエム。アランシアの使う音の魔法には、相手の脳を揺さぶり、強制的に睡眠状態にしてしまうという恐ろしい力がある。
「どう〜?効いてるかなぁ〜?」
戦闘中でものんびりと間伸びしたアランシアの声。一応本人はそれなりに緊張感を持っているらしい。
苛立つヴァルカネイラは体を舐める炎から脱出し、キルシュに突撃をかけようとした。しかし炎の壁の向こうにいたのはキルシュではなく、一人の少女だった。
「!まさか、あれは!」
アイリッシュの光魔法。闇の魔法を使う生き物にはまさしく唯一の天敵である。
「そう。さよならよ」
アイリッシュの右手の光が膨れ上がり、更に眩く輝いた。
「……サンライト!」
洞窟を満たす光。それはヴァルカネイラの体を焼き、引き裂き、洞窟の壁に叩き付けた。
「ち……ちくしょ――――ッ!!体が重い!光のプレーンなどでは力が出ぬわ――――ッ!!こうなったら一人ずつッ!!」
「しまった!キルシュ、離れろ!」
ヘイゼルの警告も既に手遅れ。ピスカプークがヴァレンシア海岸で使ったのと同じ強制転移で、キルシュは再びエニグマに連れ去られようとしていた。
「うおおおおぉっ?!なんなんだよぉぉぉぉっ!!」
「キルシュっ!」
アランシアの叫びも虚しく、キルシュの姿は洞窟から消え失せた。
「融合してやる!奴と融合すれば……お前らなんぞに負けん!例え光の使い手でもなぁ!!」
捨て台詞を残して消えたエニグマ。洞窟に残ったのはピスタチオの慌てふためく声。