蒼煌水晶

□気付かぬ心
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「っとに、このバカ!びしょびしょじゃないか!」
「……」
傘を差し出し、項羽は小龍を傘下に捕らえた。その言葉に小龍は項羽から視線を逸らしてただ俯いた。
「…小龍?」
訝しみつつも、心配そうな声をかける項羽。顔を覗き込めば、小龍の葡萄酒色の双眸から、一筋の涙がつっと流れ、石畳に出来ている水たまりに溶け込んだ。
一瞬何が起きたか分からない項羽は、まじまじと小龍を見やる。

「…優しくするなっ!」
急に小龍は絞り出すようにそう言い、項羽を睨み付けた。その眼には憎悪しか映っていない。しかし、どこか悲しそうな色を浮かべている。項羽はその事に気付いているから、優しく問う。

「…何故だ?」
「…アンタのやる事は良くわからない。…っ…胸がムカムカする……!」
どこか感情的に吐き捨てる小龍に項羽は目を細めた。
ゆっくりと手を差し出すと、小龍の躰がビクリと震える。



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