アンダンティーノ!

□第一楽章
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……何で自分でもこんな性格なのかとたまに頭を抱えたくなる時がある。

身長が伸び悩み、チビだと男子に馬鹿にされれば牛乳やにぼしを摂取しまくり、
喧嘩で負ければ、近くの道場に通いそいつに勝てるまで強さを求めた

率直に言うと、私は極度の負けず嫌いだってこと

それが祟って、今では身長176p。クラスで私より高い男子は辛うじて山本ぐらい。
体育では男子と混じっても違和感を感じさせない記録を叩きだす。

そんな私は、女子からモテて、男子からは女とみられる前にまず男友達と見られるような女に位置づけられた。
女だからとなめられるのが嫌だったからとはいえ、何もここまですることはないだろう…自分…。

「ハァ……」

溜息をつきながら今日も学校へと向かう。
疲れた。
若かりし女子中学生からはあまり耳にしないだろう言葉が私の口から出てくる。仕事に疲れたサラリーマンか、私は。けれど、本当のことだ。
周りを気遣って、男らしく振舞うのに疲れた。
私だって女だ。少しくらい、女らしい扱いをされてみたいと思うことだってあるのだ。

「何だ貴様!その髪色とスカートの丈は!!」
「きゃ!」

前方が一気に騒がしくなったのに気付いて顔を上げた。
見ると、風紀委員の奴らが女子生徒の髪を思い切り引っ張っている。


「ちょっと、何してんのさ」
「あ?なんだ貴様は」
「女の髪をこんな乱暴に引っ張る奴に名乗る名前は生憎持ち合わせてないね。髪色もスカート丈も口で注意すればいいことだろう。それとも、脳内ボキャブラリーが貧困過ぎて言葉で表現できないのか?」
「何っ!?」

あー…やっちゃったー…
後悔してももう遅い。でも、心の中でくらい叫ばしてくれ。
神様、何で私を男に生まなかった!!助けた子が送ってくる熱視線に心が痛むのに!

「っ……き、貴様もスカート丈短いじゃないか!!」

自分より長身だった女にビビったのか、気圧されたのを悟らせないかのようにそいつは気丈に振舞った。
というか、言うに事欠いてソレか。

「すいませんねぇ、普通よりお足がお長いもんで。ついでにあんたより身長もお高くて?丈短くしなくても膝上になっちゃうんですよ」

そうだ。私は別に校則を破りたくて破っている訳ではない。
合う制服がないのだ。私に合う制服が。

「ふ、風紀委員にその口のきき方はなんだ!!」
「風紀委員のくせして朝っぱらから風紀乱してる奴に言われたくないな」
「こ、この…っ」

現状を今までただ見ていた野次馬の中から悲鳴が上がった。
風紀委員が、ついに暴力を使ったから。
しかも確実に顔面を狙って。……仮にも女に、なんて仕打ちだ。

「悪いけど、納得できない理屈に従うほど柔軟な人間じゃないんでね」
「ッ………!!」

飛んできた拳を受け止め、その伸びた腕を掴んで一本背負いを決めてやった。
拍子に飛んでしまった鞄を拾い上げ、土を払うと去り際に、地面と仲良しになったソイツに行ってやる。

「私と口論するなら、私が納得する正論を返してみせろ」

鞄を肩にかけ、その場を足早に去る。
……鞄、放り投げちゃったけど、中にあるお弁当大丈夫かな…。
倒した後で気を抜いて別のことを考えていたせいか、この時私は注意力が落ちていた。


「ぶっ」
「?」

ドンと胸辺りに衝撃が加わり、鈍い声が聞こえた。
しかし、肝心の人間が見当たらない。

「声が聞こえたと思ったけど……空耳か?」
「ねぇ、ふざけてるの?」

声が聞こえて視線を下に向けると、黒髪の男子生徒がこちらを見上げて睨んでいた。

「ああ、ごめん。前方不注意だった。いや…この場合は下方不注意か…?」
「………どうでもいいけど早くどいて欲しいんだけど。邪魔」
「ごめん」

中々毒舌なその子の機嫌をこれ以上損ねないように横にそれると、少し赤くなった鼻をさすりながら不機嫌そうな顔で私を睨んでくる。ホントにゴメンって…。

それにしても綺麗な子だ。
色白だし細身で、すらりとしているし……人形みたいな子だな。

「委員長!そいつです!!ソイツが自分を投げ飛ばして……!!」

いつのまに復活していたのか、私が投げ飛ばした風紀委員がこの男の子に向かって叫んできた。
……この子が噂に名高い風紀委員長の雲雀恭弥だったのか…。
会う機会は今までなかったから、ごつくて、一昔前の番長みたいな人間をイメージしていたから、その現実と想像のギャップに驚かされた。

「ふぅん。君が風紀を乱した張本人かい?」
「一応言っておくが、先に風紀を乱したのはあの男だ。いくら校則を守らなかったとはいえ、女相手に手加減もしないのは見過ごせなかったんでね。……それとも、風紀委員ってのは、そんな言葉で注意することすら知らぬ野蛮人たちの集まりなのか?君がその隠し持っている武器で今から私を殴るというなら、風紀委員という組織について考えを改めないといけないな」
「!……へぇ、気付いてたんだ」
「ワイシャツの皺のつきかたが不自然だ。シャツの袖の中に何か隠し持ってることぐらいは判ったよ」
「………君、おもしろいね」

気に入られるような発言をした覚えはないんだけどな…。
むしろ、喧嘩売っていると思われても仕方ない発言を多々した覚えがあるくらいなんだが…。

「気に入った。だから特別に咬み殺さないであげるよ」

去り際に、私の肩に手を置き雲雀は耳元で囁いた。

「かわりに昼休み応接室においで」

たった一言そう告げて。
そのたった一言に、不意に胸が高鳴ってしまったのは、一生の不覚だったと思う。


始まりの二重奏



 

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