未来系

□花
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誰もいない、静まり返ったブリーフィングルーム
薄暗いその部屋の隅で、フェルトは一人蹲り、抱えた膝の間に顔を埋めた。

―ウソツキ

一瞬そう考え、だが、それは違うと否定した。

最後の夜、帰って来てと願うフェルトに、ティエリアは約束した。生き残る、と。

そう、少なくとも彼は、死んでいない。生きている。
彼の意識はヴェーダに残り、今は、眠っている。来るべき、対話の為に。

それはきっと遠い未来。フェルトが生きているうちには、あり得ないだろう。
生きてはいる。けれどもう二度と、会う事は出来ない。ティエリアに……

生きてはいる。けれど帰って……来なかった。

誰もいない
一人で泣くのは、久しぶりだ。

フェルトは死んだ者達の名を、頭の中で指折り数えた。
クリスティナ・シエラ、モレノ医師、リヒテンダール・ツェーリ、アニュー・リターナー……

そして……ロックオン・ストラトス

5年前、フェルトの両親の命日に、慰めてくれたロックオン。
そのロックオンが宇宙に散って、姉代わりのクリスティナも、死んでいった。

皆いなくなった5年前の戦いの後、フェルトの横には、ティエリアがいた。

フェルトと同じ様にロックオンに慰められ、同じ様に、失った。
フェルトと同じ様にティエリアも、初めは一人で泣いていた。

そしていつからか、互いの痛みを共有し、隙間を埋めるように、互いの心に……互いの肌に、触れた。

フェルトの自室よりも、このブリーフィングルームは壁が厚い。
声をあげて泣いたところで、誰に気兼ねする事もない。

誰にも聞こえないし、誰も来ない。誰もいない。

誰もいない。だからフェルトに、誰も触れなかった。
黙って隣にいてくれた、不器用な彼は、もういない。


移動用のグリップを握り、フェルトは自室へと向かった。
低重力下にもかかわらず重い頭と、体。

「アレルヤ……それにマリーさん」
「フェルト、泣いてたの?」

部屋の前にいたアレルヤは、フェルトを一瞥し、心配そうに問いかけた。
マリーは遠慮がちにアレルヤの後ろから、フェルトの様子をうかがっている。

「……大丈夫、それよりどうしたの?2人で」
彼等に心配をかけたくないと思い、何より理由を聞かれたくなくて、フェルトは彼等に用件を問う。

「あ、えっと……実は僕達、トレミーを出ようと思うんだ」
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