001st

□再起
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静寂が重い、プトレマイオス通路の一角。

紅い闇が数秒ほど、虚ろな視線を2人に向ける。
そして、闇の主‐ティエリア・アーデは無言の2人からついと視線をそらし、そのまま床を蹴り宙に浮いた。

「あ…ティエリア、待って」
アレルヤが慌てて後を追う。刹那は相変わらず無言で、2人に続き床を蹴った。

低重力下、すぅっと滑るように、紫の絹糸(けんし)が流れてゆく。
どこへ行こうというのか、振り向きもせず真っ直ぐに、目的へと進む背中。

刹那が壁を蹴り、ティエリアの横に並ぶ。
ここにきて初めて、アレルヤは最年少のマイスター‐刹那・F・セイエイに思い至る。

『子供のお守りをよろしく』
かつてアレルヤはロックオンに、そう言った事があった。
子供とは、初ミッションで多少興奮していたのか、先走ってしまった刹那の事で、ティエリアはというと
『作戦行動に移る』
と、極めて冷静で、刹那と同年代とは、とても思えなかった。

兄のように刹那に接した、ロックオン・ストラトス
刹那にとっても、彼の存在は大きかった筈だが…

ティエリアを気遣うように、並走する刹那。まるで立場が逆転している。

単独行動に、走りがちな刹那。
彼がマイスターとして選ばれた理由を、アレルヤは少し理解した。


何度目かの角を曲がった時、刹那が片腕でアレルヤを制し、床に降りる。
「刹那?」
刹那は少し俯いて、沈鬱な表情を浮かべている。
その間にも、ティエリアの背は遠ざかり、やがて別の角を曲がり、見えなくなった。

「どうして?」
「少し、一人にした方がいい」
「え…でも…」
「放っておいてやれ」
ティエリアの姿が、消えた角。顔を上げ、刹那がそちらを見遣る。
「アイツは、そんなに弱くは無い」

―きっと、越えられる。
そんな意味合いが、その言葉には含まれていた。

溜息をつき、刹那と同じ方向を見る。
「そっか…そうだね」
刹那が床を蹴り、宙に浮いた。そのまま、廊下を流れてゆく。


その時アレルヤは…刹那も、ティエリアも気付かなかった。
彼らを見つめる、一人の少女の存在を。


廊下に立ち尽くしたまま、アレルヤ・ハプティズムは思考に沈む。

刹那はティエリアを、『信じて』いる。
大丈夫だと、きっと立ち直ると、確信している。
以前は互いに銃を向けるほど、反目しあっていたのに…

床を蹴り、自室に向かいつつその思考を継続し、一つの事件に思い当たった。

『トリニティ』
あの過激な、無差別テロとなんら変わらない、トリニティチームのやり方。
それに反発を覚え、彼らに敵対した刹那と…ティエリア。

きっと驚いただろう。
何せあの『ティエリア・アーデ』が待機命令を無視してまで、刹那に同調したのだから。
あの時はじめて、彼等はフォーメーションを使い、真の意味で『共闘』した。

多分あの時だ。
刹那とティエリア、そして多分、助太刀に入ったロックオンとの間にも、『信頼』あるいは『仲間意識』が生まれたのは。

多少の疎外感を覚え、自分に苦笑しつつ、アレルヤは思った。
信じてみよう、と。

刹那が…そしてロックオンが信じ、守った『ティエリア・アーデ』という存在を。

彼らが信じるなら、きっと立ち直れるだろう。ティエリアは。
もし、立ち直れなかったらその時こそ、きっと『仲間』がティエリアの助けになる。

その中に、アレルヤ自身も含まれている事を、密かに願う。

そして祈った。
見守って欲しい、と。

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