001st

□手紙
1ページ/4ページ

凛と光る星々の中、あの人は…ロックオンは、散った。

「ティエリア」
「何だ?」
名を呼ばれ、ティエリア・アーデは紅梅の少女に目を落とした。

2人が同時に訪れた、プトレマイオスの展望室。

「ティエリアは…どうするの…これから…」
これから…ロックオン・ストラトスの、いない世界で。

少女‐フェルト・グレイスはティエリアの胸に顔を埋めたまま、細い声で、ティエリアに問う。

「そうだな…」
眦を上げた、紅い双眸。ティエリアの心は、既に決まっていた。

CBは世界に対し常にその存在を、圧倒的な力を示し、紛争の抑止力足りえなければならない。
撤退は、闘いをやめる事は…計画の中断を意味し、これまでの闘いの…ロックオンの死の、意味が失われる。

それは…嫌だ。どうしようもなく。

だからこそ…
「これまでと同じだ。計画を続行し、世界から紛争を根絶する」
闘いを続ける。ここで終わりにはしない。

それは前向きな…正しい行動だ。
だがフェルトには、すぐに肯定出来ない理由があった。

「でも…リスクが…」
不安に波打つ、海の瞳。
そう、敵機の残数は10を超える。ガンダムは破損、そして…減ってしまったマイスター。
「それに…アレルヤと刹那は…」
ティエリア以外の、ガンダムマイスター。彼らは闘うのだろうか…それとも…
どちらであって欲しいのか。自らの心を、フェルトは測りかねていた。
「まだ聞いてはいない。だが…きっと」
答えは、明白だった。

そっと、ティエリアは瞳を伏せる。
何も言えずフェルトは、ただ、ティエリアを見上げていた。

その表情は、とても…静かだった

闘いを選択する。
きっと、彼らはそうするだろうと、ティエリアは思って…いや、『信じて』いる。
何故?
決まっている。彼等は『仲間』だ。
ロックオンと、共に闘った仲間。だから…

「フェルト・グレイス?」
ティエリアが目蓋を上げれば、視界に飛びこんで来る、少女の涙。
「…私、約束したの、ロックオンと」
決めたのだ。彼は…ティエリアは…
闘いを…進み続ける事を選択した。

「生き残るって、約束したから…」
「そうか…」
彼女を見降ろす、紅い瞳。灯る光は柔らかく、そしてたまらなく、切なかった。

彼らを止める事は、彼女には出来ない。
だからせめて、伝えたかった。
「だからティエリア…貴方も」
生きて欲しい、と。
もうこれ以上誰も、失いたくなかった。

「わかっている」
彼女の願いを、ティエリアは受けた。
「そう簡単には死なないさ。やれるだけの事はする。ロックオンの為にも」
計り知れない、リスクの大きさ。
それでもその声に迷いはない。とても力強く…心強かった。
「うん…」

やがて、鼓動と共に静まる心。そして生まれた…小さな感情。
「いいな…ティエリアは」
再度フェルトはティエリアの胸に、自らの額を押しつけた。

「何故?」
「…闘える、から」
ティエリアは困惑する。
それがどうして、彼を羨む理由になるのか…

「出来ないから、私には…
もう、何も言えない。ロックオンにも…パパとママにも…」
何も話せない…何も伝えられない。想いはただ、重なるだけ。
だが…

彼には残されたのだ。彼女には無い、闘いという方法が…そういう事だ。

「そうか…そうだな…」
少女を抱えたまま、ティエリアは天を仰ぐ。
何も、言葉は見つからない。

死者への想いを、闘いにのせる。
それは彼女には出来ない、マイスターだけの特権。
彼が何を言ったところで、気休めにすらならな…い…………………?

方法は、ある。一つだけ………

フェルトの体を前に押し出し、直後ティエリアは床を蹴った。そのまま扉に向かって流れてゆく。
「あ…」
フェルトは慌てて腕を伸ばすが
「待ってろ。すぐに戻る」
それだけ言うと、扉の向こうに姿を消した。

一人残された展望室。
何も掴めなかった手を降ろし、フェルトはそのまま、自らの肩を抱いた。
感じる肌寒さが、酷く怖かった。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ