001st

□綻び
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「アレルヤ・ハプティズム」
営倉の扉が開き、白皙の美貌が姿を現す。
いつものごとく不機嫌だが、今日はそれに、拍車がかかっている。

「3日ぶりだね。ティエリア」
ティエリア・アーデ
ガンダムマイスター、僕の仲間だ。

最も、彼の方では既に、僕は仲間というカテゴリから外されているかもしれない。

「反省した様子はないな。全く、スメラギ・李・ノリエガも何を考えている」
僕を一瞥し、正確に心情を読み取った。隠す気もないけどね。

「スメラギさんは関係ないよ。勝手な事したのは、僕だから」
スメラギさんは僕を助けただけだ。
デュナメスの高精度射撃能力まで、世界に晒して。

「その通りだ。なぜあんな真似をした?」
心中で苦笑した。

当然知ってるのに、わざわざ聞くあたり、相当苛ついてる
それはそうだろう。僕のせいで、計画に大幅な支障が出たんだから。

「…放っておけないよ。あんなに」
「大勢の人が事故にあったのに、か」
どうやら、誰かが僕の言葉を一言一句、彼に伝えたらしい。

僕は、キュリオスから降ろされるだろうか?

「そうだよ」
だけど言い訳はしない。僕はミッションを放棄し、人命救助を優先した。


「下手をすれば、キュリオスは鹵獲されていた」
やっぱり降ろす気だ。仕方ないけど、少し残念で、何となくさびしくなる。
これで世界を、自分の手で変える事は出来なくなるから。

僕が殺した兄弟達。その贖罪の為に、自分の手で。

「そうだね。悪かったよ」
あの後、敵が救助作業を優先しなければ、その可能性もあった。
そして、ガンダムの秘密が、敵に知られてしまう可能性も。

「今度また愚かな真似をすれば、君ごとキュリオスを破砕する」
どうやら、僕はまだ降ろされないらしい。

本気かな? いや、多分本気だ。何と言ってもティエリアなんだから。
苦笑が漏れる。今度は心中だけじゃなく、実際に。
全く…彼は本当に…

なんにせよ、僕はそれだけの事をした。
キュリオスを降ろされなかっただけ、良かったと思うべきか。だけど

「太陽炉を捨てる気かい?」
ガンダムの動力、特殊駆動機関GNドライヴ‐太陽炉
再生産は不可能。それを捨ててでも?

「ガンダムの秘密を守るためだ」

言いきった。
じっと僕を見据え、一片の迷いもなく、意志を宿した紅い、瞳。

その赤い瞳に、意志の強さに、僕は魅かれた。


強い。
強い信念が、彼にはある。

理由はわからない。
だけど彼は、何があっても、惑わされる事は無い。

彼は決して、僕のように私情に走って、計画を歪めたりはしないだろう。
僕は自分の行為に、後悔はしていない。けれど

自分から死にたいとは、思わない。
だけど僕が原因で、計画が成し遂げられないのは、嫌だ。

「…うん。その時は頼むよ。遠慮なく撃っていいから」
少し後ろめたくて、僕は彼から目を逸らした。
彼に、罪を負わせることになるから。

だけど僕は、生き方を変える事は出来ない。
また、同じ事をするかもしれない。

それでも、僕と、もう一人の僕が暴走したら、彼が止めてくれる。

その時の僕には、彼が、とても頼りになる、光輝く存在に見えた。


「それでいいのか?」
「え?」
驚いて、思わず顔を上げた。

「それでいいのか、君は」
「だって、そうしないと計画が」
言い訳じみた事を口にしながら、僕は彼を観察した。

「そう思うのなら、最初からやらない事だ。あんな愚かな真似は」
心なしか、眉間のしわがさっきより深くなって、かなり怒っている。

「でも、やっぱり僕は、放っておけないから」
なんで怒っているのかわからないまま、彼の言葉に言葉を重ね―

衝撃が走る。
超兵である僕には、彼の拳は見えていた。だけど、避けられなかった。

「…何故だ?
マイスターは完全でなくてはならない!! 君にはその自覚が無いのか!?」
どうして、こんなに怒っているのだろう。

いつものティエリアじゃない。
こんなに、感情を露わにするなんて。

「そりゃ、分かってるよ。でも…」
「もういい!! 暫く反省してろ!!
キュリオスから降ろされる事も、十分にあり得ると思え!!」

尚もいい訳をしようとした僕を怒鳴りつけ、
彼は出て行ってしまった。

「何なんだろ。ホントに」
あんなに怒るなんて、ティエリアらしくない。

僕がマイスターに相応しくないのなら、キュリオスから降ろせばいい。
僕の意思はともかく、彼にとってはそれだけの事だと、思ってたけど。

ひょっとしたら

「少しは心配してくれたのかな?」
僕を殺したく無いと、少しは思ってくれたのか。

だから、あんなに怒っていたのだろうか
僕が変わらない事に、変われない事に―


ゴメンね、ティエリア。
僕は変われない。

いざという時は、頼りにしてる。
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