001st

□再起
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扉を開くと同時、アレルヤの耳を打つ、女性の声。

「敵がまだいるのよ!! 泣き言を言う暇があったら手伝って!!」

声の主‐戦術予報士スメラギ・李・ノリエガ。

彼女に頬を打たれる、ティエリア・アーデ。

彼女の判断は正しい。
今は、混乱が許される時ではない。


「ティエリア、刹那も…少し休んだ方がいい」
それで少しは落ち着くだろうかと、アレルヤ・ハプティズムは2人の肩を押した。

ロックオン・ストラトスがいない今、アレルヤは最年長のマイスターとなった。
だからどう、という訳でもなかったが…

「スメラギさん、あとよろしくお願いします」
「わかったわ」
スメラギにそう伝え、2人を促しエレベターに乗る。

俯き加減の2人は、廊下に出てもずっと、何も言わずにいた。
いや、何も言えなかったのか。


重い空気の中、先行する刹那・F・セイエイが足を止める。
彼が振り返ると同時、続くティエリアも立ち止まった。

茫洋とした視線だけが、それぞれの存在を示し、交差していた。

刹那を見降ろす、力の失せたティエリアの瞳。何も、誰も映さない曇り硝子の紅。
喪失の痛みと、どこか憐れみを含んだように見上げる、刹那の視線。
先の見えない不安に彩られた、ただ傍観するしか出来ないアレルヤの片目。

時間が、停滞する。


淀み始めた時の中、ティエリアが不意に、瞳を閉じる。

嗚咽を漏らすわけでもなく、涙を滲ませる事もない。
ただ静かに…黙祷を捧げるように、俯いて…

頬に残る、赤。

「ティエ…」
見ていられず、思わずアレルヤは手を伸ばしかけた。
その手を掴み、刹那が首を振った。

―邪魔するな
そう言いたげな視線で。

視線をティエリアに戻し、アレルヤは悟る。
それは…『祈り』だった。


アレルヤ・ハプティズムは思う。
どうして、自分は泣いているのか、と。

ティエリアも刹那も、泣いていない。なのに、どうして?
ロックオンが死んで、悲しいから?

それもある。
だけど何か、違う気がする。

ティエリアは今、『祈り』を捧げている。
ロックオン・ストラトスに。

いや、あるいは、問いかけているのかもしれない。
これから、彼が、ティエリアがすべき事を。

消え去ってしまった、ロックオンという存在に。

ティエリアに倣い刹那も、その赤茶色の瞳を閉じる。
共に、祈りを捧げる為か…


やがて、ゆっくりと吐き出された息と共に、ティエリアが顔を上げた。
その気配に刹那も、閉じられていた目蓋を上げる。


そして戦慄する。姿を現した紅い闇…底知れぬ空洞の瞳に。
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