パラレル

□文化祭
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― キーンコーン

「ハ〜イみんな席についてぇ」
涼しくなり始めた初秋の朝、今日も今日とてテンションが低い私立ソレスタル学園美人教師、スメラギ・李・ノリエガ。
低血圧と言い張っているが、二日酔いを引きずってるせいだとは教師及び生徒間の周知の事実である。ついでに男子生徒には少々目の毒な服装と、邪魔ではないのかと思う茶褐色の長い髪もいつも通りだ。

「では、昨日話した通り、文化祭の役割分担から始めましょう」
本日一時間目は各クラスで行う文化祭の出し物について、必要事項を決める事となっていた。
くじ引きの結果は演劇……といっても本格的なものは演劇部が行うため、来訪するお子様向けの簡単なものだ。

10分ほどして演目は決まったが、問題はこれからだと教壇に立つクリスティナ・シエラは少々気が重くなった。スメラギがクリスに丸投げするのでこういった事は全て副担任のクリスが担当している。
だがスメラギをやる気0のグータラ教師だと油断していてはいけない。クリスの後ろでパイプ椅子に座るスメラギは、そのリラックスした風情とは裏腹にクラス全体を隈なく把握し、密かに携帯をいじったり手紙を回したりその日提出の課題を片付けていたり、はたまた特定の異性を盗み見したりする生徒を頭の中にインプットしているのだ。

「それじゃあ次に配役ですが……」
「はいは〜い!! あたしやりたいで〜す!!」
クリスの葛藤などどこ吹く風、真っ先に手を挙げたのは赤い髪のそばかす顔。美人というよりは可愛い印象の強い、いかにも末っ子な少女だ。
「はいはい、わかったから座って座って。じゃあ、ネーナの他にやりたい人は? 推薦したい人はいる?」
教室内にざわめきが広がる。男子は推薦にかこつけてクラス内美人批評をしているし、女子はそれぞれのグループ内で立候補を推奨しあっている。
結局その中から多数決かくじ引きで決めるのだろうが、気をつけないと後々面倒なことになる。
投げやりに候補に挙げられた子供向けありきたりの物語のうち『シンデレラ』に票を投じた女子はそれなりに多い。高校生ともなればいい加減夢から覚めそうなものだがそれでも、だ。

そんなこんなでクラス内が騒がしくなり始めたころ、スメラギがいきなり立ち上がりクリスに交代を促し教壇に立った。
バンっと教卓を両手でたたき、その音にざわめきがぴたりと止まる。何事かと注目する生徒達を見渡し、スメラギは口角をつりあげた。いわゆる『何か企んでいる顔』だ。

「まぁ基本的に女子は皆シンデレラがやりたいし、男子は可愛い子のシンデレラがみたいでしょ?」
男子の一人が『そ〜で〜す』と野次を飛ばすのをスメラギは華麗にスルーした。
「で、誰を選んでも後々どーしても不満は出ます。そ・こ・で」
と、スメラギはある一人の生徒を凝視し、にっこりと満面の笑みを浮かべる。
そしてスメラギの提案に女子は面白半分で割りと乗り気、男子はしぶしぶといった感じではあるが、とりあえず全員が納得した。
少なくとも『主役』という『特別な女生徒』をつくらずに済むのだ。平等だ、少なくとも女子については。

そしてスメラギに抜擢されたのは勿論というか何というか
「何故俺がやる必要がある? くだらない事に俺を使わないでほしい」
と、不機嫌も露わな白皙の美貌の『男子生徒』ティエリア・アーデであった。

続く
 

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