00second

□家族
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深海に潜む、宇宙輸送艦『プトレマイオス2』通称トレミー。
重い足取りで通路を進む、白と紫‐ティエリア・アーデ。

彼は自覚していた。
感じるこの重みは決して、重力のせいだけではない事を。

体全体にまとわりつく、自身の内から滲みだしてくる何か。
徐々に体を覆い、感覚を奪い、やがて重みを伴い、歩みを止めさせようとする。
このまま重量が増していけば、いつかは地面に潜り込み、そのまま出られなくなりそうだ。
馬鹿な事を、とは思う。だがいっその事、その方が良かったかもしれない。


『同類』に会った。自身と同じ容姿をした『計画の為に創られた』存在。
そしてその存在は、ティエリアに宣告した。
CB−ソレスタル・ビーイングは4年前に『滅んでいた』筈の存在なのだと。

現在のCBの敵−独立治安維持部隊『アロウズ』が、人類の意思を統一する…
それが本来の、イオリア・シュヘンベルグの計画

そしてその為に、『ティエリア・アーデ』が、その同類『イノベイター』が、
『人ではない』存在が生み出された。
計画を遂行する為に―

だとしたらCBが、仲間達が…ティエリアが…
今まで行ってきた事は…そして、これから行おうとしている事は…

間違っている
そう、『同類』‐リジェネ・レジェッタはティエリアに告げる。

…だから、アロウズのやり方を、あの卑劣な連中を容認しろと?
あんな、反対勢力を躊躇いもなく殲滅する、利権に群がる屑共を?
それこそ間違っているのではないか!?


『変革は痛みを伴う』
だが、ティエリアの否定を、リジェネは軽く受け流した。

『君たちだって、そうしてきたじゃないか』
何を今更、そう言いたげな口調で。そして…それは事実だった。
否定する言葉を、見つける事は出来なかった。

『ティエリア・アーデ…共に人類を導こうじゃないか』
頭に…いや、心に直接響き渡る、甘い…囁き
優しくあやすように、「こちらへいらっしゃい」と、幼子の手を引く母親のように…
柔らかく、包み込むような優しさを持って…

『答えは、急がないよ』
それでいてぞっとする、逆らえば存在を否定される…体の芯を凍えさせるような、絶対0度の空気を纏って…
だが、僅かにでも触れれば、引き込まれて…

『また、会いに来るよ。僕達はいつでも、繋がっているんだから』
逃れられない

リジェネが去った後も、ティエリアは暫く、動く事が出来なかった。
わからない。何が…誰が、正しいのか
何のために、闘うのか…

セラヴィーを操り、プトレマイオスに帰還する間も、ずっと、考えていた。
これまでの歩みを、選び取ってきた道を、全て否定された。

計画の為? だとすると間違っているのは、CBの方で…
だけど…それでも…CBが、仲間達が…ここまで進んできた道が…
間違っているとは思えなくて…だけど、CBの存在は、計画の障害に…

ずっと、この繰り返し。
答えが出る気配が、全く無い。

世界が、凍りついた
そんな、気分だった

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あれは、幻想
硝子の向こう、深い海の中に浮かぶ、あの人の姿。

『自分を型に嵌めるなよ』
思わず振り返ってしまったが、当然、誰の姿も無く―
『四の五の言わずにやりゃいいんだ。自分の思った事を、な』
その言葉だけが、耳に残った
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