00second

□無言
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「ホンット、気まずいのよね」
食堂から戻るなりそう言って、クリスティナ・シエラ(通称クリス)は軽く勢いをつけてシートに沈みこんだ。
フェルト・グレイスは視線だけで彼女を一瞥すると、また作業に戻る。

気にならないわけではないが、元々あまり人に興味を示さないたちだ。
わざわざ聞くほどでもない。

「何がだ?」
「この前もそんな事言ってたっすよね?」
だが、砲撃士ラッセ・アイオンとリヒテンダール・ツェーリ(通称リヒティ)には、そうでもなかったようだ。それとも社交辞令だったか。

「ティエリアと刹那。何であんなに仲悪いんだか」
作業を開始しつつ、呆れたような声で、クリスは状況を説明しだした。


食事をとる2人が食堂に居て、前回の経験から多少躊躇はしたものの、他に人もおらず、一人で食べるのも何だと思い、2人の向いの席についた。

が、あの2人である。朗らかな世間話はもちろん、社交辞令や挨拶など望むべくもなく、
それどころか、互いに無言で、一言も話さないどころか目を合わせる事も皆無で、さながら義務のように食事を飲み下していた。

それなら離れて座ればよいものを、なぜか前回といい今回といい、一つ席を挟んだだけで、横に並んで食事をとっていた。

で、クリスとしては、気まずい事この上なく、砂を噛むような心地だった。


要約すると、そんな感じだったらしい。

「そりゃ、災難だったな」
「何だったら、次からはご一緒するっすよ」
そっけないラッセと、ニッコリ笑って対応策を提示するリヒティ。
「仕事は?」
やはり、にこやかに笑ってリヒティを牽制するクリス。
「いや〜それは」
妙に迫力のある笑顔(威力はリヒティ限定)に、やはり笑顔(引き攣っている)でごまかしつつ、リヒティは言葉を失った。

フェルトは知らない(興味がない)が、リヒティがクリスに気があるという事は、プトレマイオス(通称トレミー)内では、ほぼ周知の事実である。

「ほっとけよ。その内何とかなるだろうさ」
「そう?」
「う〜んどうだろ、刹那はともかくティエリアは………


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

夢を見た。
4年前、まだクリスティナとリヒテンダールが、生きていた頃の。
ティエリアの神‐ヴェーダが健在だった頃の。

不思議だ。
思い出すことすらなかった、ほんの僅かな日常の記憶。
それでも、夢に見るときは、何もかもが鮮明で、昨日の事のように思う。

あの頃自分は、人と話す事が苦手で(今もあまり得意ではないが)、
後ろで話す3人の言葉に、口をはさめずにいた。

いつも気にかけてくれていた、クリスティナが話を振ってくれたが、
それでも私は、『別に』と、今にして思えばかなりそっけない返事しか出来なかった。

あの時、自分は何を思っていたのか。
風景だけは鮮明に思い出せるのに、その時の気持は、よく覚えていない。

まだ仕事に戻るまでの時間は、十分に残っている。
考える時間は、あった。

そんな時だった。

「フェルトか」
現れたのは、夢の中で、話題に上った人物(人ではないのだが)
そう、ティエリア・アーデ。私達の仲間。仲間…

「どうした?」
見上げる私を不審に思ったのか、少しだけ彼は首を傾げる。
急速に浮かび上がる、4年前の記憶。
「何でもない。座らないの?」
内心の動揺を隠し、向いの席を示す。
「ああ」
そこに座ると、手に持ったドリンクを置き、小型の端末を開いて、情報の閲覧を始めた。
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