長い話
□君の世界〜序章〜
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真っ白い空間を一人の男が歩いていた。
男の歩くそこは、左も右も、前も後ろもどこもかしこも白く、ただ道だけが色づいていたのでかろうじて天地があるというのが判る。
そしてやはり、天も白かった。
白い空間の中唯一の目印である地面は、赤茶の美しい煉瓦の舗装された道と、その両側を飾るかの様に咲く、色とりどりの花。
上品な赤が目に付く高木に咲く椿、その横で愛らしく揺れるスズラン、瑠璃色が美しいブルーデージー、多種多様な色を咲かせるパンジーの花、青、白、ピンク、と可愛らしいスターチス。一見してそれらは無秩序に道の両脇を飾っているが、人の手によって整えられた花壇より、自然と鮮やかで目を和ませる。
だがよく見ると花はそれぞれが生命溢れるほど懸命に咲き誇っているが、全てがおかしかった。
春先に暖かい場所に咲く椿、初夏に花開く野薔薇、同じく初夏でも高山などに生えるスズランやライラック、秋に盛りを見せるパンジーやコスモス、全てが季節や場所によって咲く条件が違うにも拘らず、一斉に咲かせている。
そしてそれらは咲いている、といった表現は厳密には正しくなかった。
道を歩く男が足を進める少し先は何の花も咲いていない。どころか煉瓦の道すらも無い。
それが男が歩く毎にその先を白いカンバスに絵の具を落としたかのように、色が拡がり道に成り、植物が地面から脅威のスピードで芽吹き、最盛期の状態まで一気に成長する。
それら全てが男の意思で動いていた。
男が望むように道が創られ、目を楽しませるために多種多様の花が季節を忘れ、盛りを見せる。
意思が全てを決める。
ここはそんな世界だった。