赤い小さな状袋
□屋上ファントム
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今日も私は、屋上へ行く。
ドアを開けると、空がひらけている。
この学校の屋上は、自由に出入りが出来る上、誰もいない。うってつけの練習場所だった。
転校して、1週間。こんなに早く練習場所が見つかるなんて、思わなかった。
今日の課題曲は「ハバネラ」。カルメンの中の1曲だ。
早速、楽譜を開いて、空に向かって歌う。
私の母はオペラ歌手だった。
ほとんど日本にいない母は、祖母に私を預けていた。しかし、祖母の入院で、叔父の所に預けられる事になった。その為、並盛中に転校する事になった。
(やっぱり、お母さんみたいに歌えないなあ。)
歌い終わって、私はため息をついた。
その時、乾いた音が屋上に響いた。
それが拍手だと気付くのに、しばらくかかった。
屋上には誰もいないはずだと思いこんでいた上に、初めて自分に向けられた賛辞だったからだ。
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